B-12 さあ、はりきって初仕事

1986年1月D日

さあ、はりきって初仕事

ダンピア, 港, システム, 搬送, 巨大, 韓国船

 いよいよ韓国の船が入ってきた。アーノルドを助手席にダンピアの港へとはりきって愛車トヨタハイエースを飛ばす。

 カラーサの町並みを抜けると、道路の両側は一面の砂漠となり、それでなくても良すぎる視界に、見えるものは地平線と道路と遠く正面に見える小高い岩山だけになる。

 左側約200メートルに並走する鉄鉱石運搬列車が見えた。しばらく並んで走るが、その連結車両の長いこと。アーノルドに聞くと、全部で200両編成だとかで、そのブレーキングのためだけに機関車が先頭に三つ付いている(引っ張るだけなら一つだけでよいらしいが)。

 ピルバラの内陸部約400キロの奥地トムプライスからはるばる運んでくるということだが、海に近いこのあたりでもこの暑さであれば、内陸の方は想像するのも嫌気がさすほど厳しい条件に違いない。そのせいかかなり低速で走ってるせいか、どこかしらこの列車はヘトヘトに疲れたようなうら悲しい趣きを漂わせている。

 両側に白く平たいくぼ地が広がり始めた。これが塩田である。ここの塩田はわが瀬戸内の海にあるやつとはケタ違いで、まさにダダッ広い。地平線まで一面真っ白、改めてこの国の土地がいかに有り余っているのかがわかる。

 20分走って、ハマーズリーアイアン鉄鉱石会社の敷地への入口、入場者をチェックするゲートに到着。アーノルドはここの門番にオレのことを紹介してくれた。初老の門番のオッサンはオレの顔を見ながら、ケッタイなやつが来よったわい、とでも言いたげな顔をしている。これから先は危険地域であるため、ヘルメット、安全靴の有無をチェックされた。

 ここは鉱山から列車で運ばれてきた鉄鉱石を降ろし、保管し、船から積み出すという機能を備えた世界でも有数の超巨大システム基地である。

 敷地内へ入って約1キロ、恐竜のような巨大なコンベアベルトと平行に走る。そして超巨大な機械設備類が並ぶ敷地内を制限時速40キロで抜けていく。敷地内は、鉄鉱石を運んできた貨車をひっくり返す場所、それをストックパイルとして溜めておくところ、鉱石の粒を均等化するためのスクリーニングするところ、などが十分な敷地に余裕をもって配置され、それらすべてが長大なコンベアベルトで連結されている。

 常時何百万トンの量の鉄鉱石をストックしておくのか知らないが、このイースト・インターコース・アイランドという小さな島全体をカバーするシステムの姿はまさに圧倒的。巨大な龍のようだ。

 ここの鉄鉱石はこげ茶にほんの少しだけ赤を加えたような色で、ここに運ばれてくる鉱石はすでに柔らかな土状になっている。そのため、風が吹くとあたりは一面、土煙の中にスッポリ。目などとても開けてはいられない。

 この港ができて約20年というが、この島はどこもかしこも赤茶色一色だ。道路、機械類、各施設はいうに及ばず、車や人間までもがその色に染まり上がっている。島の真ん中の小丘のてっぺんにそびえる、ポートコントロールのタワーだけが白くきれいに残って、どう、わたし、キレイでしょ、とあたりを見下ろしているかのようである。

 通路前方に赤信号が出ていたため車を止めると、オレたちの目の前をこれまでに見たこともないクソバカでかいトラックが、ガーとうなり声を上げて横切っていった。

 目をむくオレに、アーノルドは、
「あれは100トン積み(!!)の鉱石運搬用のトラックだ。向こうのパイル(鉱石堆積場)からこっちのパイルへと鉄鉱石を運んでいる。
 いいか、ケン。この赤信号が出ている時は、おまえは何があっても絶対に一時停止しなければならない。なにせやつらの車は100トン積みだ。急停止なんてできっこない。それに止まることはやつらドライバーの就労契約に違反することにもなる。
 ケン、もしおまえがやつらの走行を邪魔するようなことがあれば、やつらはおまえを容赦なくひき殺すかもしれないし、たとえ事故が起きなかったとしても、オレたちの会社がこの敷地内に出入りできなくなるよう、ドライバーは鉄鉱石会社側に怒鳴り込むだろう。そうなればオレたちの商売はその日をもって、ものの見事にオジャンだ。
 いいな、わかったな?」
とオレに諭した。

 岸壁にロープで船が固定されると、タラップが降りて岸壁につながると同時に、税関官吏と船会社の代理店の人間と一緒にオレたちも船へと上がっていく。まず船長にあいさつし、そして司厨長(船内の食事を調理・調達する責任者)のところへ注文を伺いにいく。船から船食業者への注文は各国の船とも司厨長が取りまとめるためだ。

 彼ら韓国人は豚肉をやたら多く注文する。あとキムチを作るための白菜。この二つが特徴的だ。この船は韓国を出て、ここからヨーロッパへ行って、ブラジル経由で韓国へ帰るという全行程約3ヶ月の航海をするという。

 次の寄港地のオランダのロッテルダムまで40日ほどらしいが、それまでの食糧ということで、肉類、野菜類、フルーツ、米、酒類など、新鮮さを要求される商品がふだんよりいくぶん多めのオーダーだということである。

 注文を確認し、トンボ返りで事務所へ戻る。積み込みは明日午後1時の予定だ。

 倉庫に入り、注文された商品を必要量だけ取り出し、明日、簡単に車に積み込みができるようにしておく。それからインボイス(商品納入書)をタイプし、通関用の書類をタイプして、配達の用意がすべて完了する、というのがこの仕事の一連の流れである。

 今回、野菜が頼まれた分に対して在庫が足りず、町のスーパーマーケットで追加調達した。他はすべて用意完了。明日、船へ積み込むだけとなった。仕事の流れそのものはいたって単純ではある。

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