B-30, 31 2連勝!, 商品がない!

1986年3月C日

2連勝!

2連勝, 受注

 S石丸がゆっくりと桟橋を離れ、その後を追って新O島丸が入港してきた。時刻は草木も眠る午前2時。

 このEIIにやってくる鉄鉱石運搬船は16万トン以上の巨大船がほとんどで、それらは満潮時でないと航行するための水深が確保できず、出入港できない。よってダンピア、ポートウォルコットともに、船の出入港の時間は満潮時にのみ限られてくる。今夜はこの午前2時前後に満潮となるため、S石丸が出て、沖待ちしていた新O島丸がその直後に入港するということになった。

 とは簡単にいうものの、やはりこの時間に家を出て行って仕事をするというのは、とても喜び勇んでという類のものではない。税関吏、代理店の連中もオレも岸壁の上で新O島丸がスローモーションのようにゆっくりゆっくりと湾を回って、接岸してくるのをもどかしげに眺めていた。

 シーレーンの者は来ていない。おそらく今回の注文も前回通り自分たちのところへ回ってくると信じ込んでいて、朝になってからやってこようという考えであろう。

 さあて、今回この新O島丸はどうなるか。S石丸のような思いがけないことになるかもしれない。一度あいさつをした船の入港時には、これから必ず接岸と同時に上がって行かねばならない。

 新O島丸は前後をタグボートに引っ張られ、その巨体をゆっくりと桟橋に寄り添わせた。船が完全に止まって、直径15センチはあろうかと見える太いロープが船尾から降ろされた。そして、下で待ち構えていた長さ12メートルほどの小さなポンポン船の甲板にいる男が、そのロープを甲板に乗せた。ポンポン船は輪になったそのロープの先端を、船の斜め後方の緩衝用岸壁で待っている二人の男の方へと渡そうと寄っていく。

 二人の男は重そうにその輪の先端を持ち上げて、ポラード(係船柱:ケイセンチュウ=ロープを引っ掛ける場所)に引っ掛ける。そして船側の乗組員は、船の上にある巻き上げ機を使ってロープを緊張させる。

 こんな風にして、船の前部に4本、中央部に4本、後部に4本の合計12本のロープでもって、この全長320メートル、19万トン積みの巨大な船舶を岸壁に固定する作業は終わる。

 一見簡単そうに見えるこのロープを張る作業は、実際きわめて危険な作業である。ある日本人の乗組員がカナダのバンクーバー港である船が暴風雨にもかかわらず接岸をしようとした時、一人の人命が奪われたのを目撃したと言っていた。

 荒れ狂う海の中2本目のロープを引っ掛け、それを緊張させた時、突然船が風と波で大きく傾き、ロープはその莫大な力でもってあたかも木綿糸のように引きちぎられた。そしてちぎれたロープの一方が巨大なムチとなって、ポンポン船の甲板で作業をしていた男を直撃。その男の上半身と下半身とを一撃のもとに真っ二つに引き裂いたという。

 このピルバラはサイクロンの季節を除けばもともと年中穏やかな気候の地方で、ダンピアの場合、港は小さな湾内にあり、風も波もそれほど強くなることはない。それでも接岸時のこの作業はロープを送りだす側とそれを迎える側との十二分な協調なしには絶対に行なえない。はたで見ている者もしばし緊張させられる瞬間である。

 長い接岸作業が終わって、安全が確認されて、やっとタラップが降ろされた、まだシーレーンはやってこない。船に上がって行くと、税関吏と代理店の人間は応接室に案内され、船長が接岸作業を終えて船橋(船の最上階にある管制室)から降りてくるのを待っている。司厨長が彼らをコーヒーでもてなす。

 オレは司厨長に、
「今回ウチはチャンスがありますか?」
と尋ねるが、彼は、
「船長が決めるやろ。ちょっと待っといて。」
とのこと。

 約10分後船長が降りてきて、税関吏と代理店たちと入港の手続きを怪しい英語ながら冗談交じりにやっている。時刻は午前3時が過ぎた。オレはアクビを噛み殺しながら、この時間でもやたら元気な司厨長とプロ野球についてダベっていた。

 税関吏と代理店がやっと帰って、船長にあいさつに行く。シーレーンはまだやってきていない。
 船長に、
「うち、今回、どうでしょう?」
と尋ねると、彼は約5秒考えたのち、
「うーん・・・、まあ、ええやろ。」

 オーマイゴッド。やった2回連続の受注だ!やれやれ、これでこんな夜更けまで待ったかいがあったというものだ。

 しかししかし、司厨長から出された注文書を見てまたまたオレの顔はピーンと引きつった。それはなんとあのS石丸より、まだ幅の広いオーダーではないか。S石丸の船長の陰ったニコニコ顔、横浜出身の司厨長の仏頂面が目の前に鮮やかに浮かんできた。

 司厨長に対してひょっとしたら全部揃えられないかもしれないということを遠回しにほのめかすと、彼は当然のことながら、
「全部集めてこいよ!」
と、おっしゃる。昼寝から起きたばかりの仏さんのような顔をしたこの司厨長はあまりコワそうではないが、船長はやっぱりメチャクチャコワそうである。

 本船への配達は明日の午前10時、出航の4時間前と決まった。
「おまえ、全部揃えへんかったら、次からはまたシーレーンに代えるからな!」
との司厨長の言葉を背に受けて船を出る。

 ライトバンに乗って時計を見ると、午前3時40分。わがいとしのベッドに入るのは4時20分ごろになるのかなあ。この感じではベッドに入っても、すんなりとは眠れそうにはなさそうだけど。

1986年3月D日

商品がない!

商品, 不足

 寝不足丸出しの顔で、朝アーノルドに今回の新O島丸もまた無事に注文が取れたことを報告する。彼は2回連続の成功にコーフン気味である。オレが見てガックリした注文書も、彼には大した動揺とはならないらしい。

 配達の用意をし始めてはたまたア然とする。以下にあげる商品がない。
・コアラ人形の特大サイズ 1個
・リプトン紅茶の黒缶250g 2ダース
・牛肉のテンダーロイン 30キロ
・シープスキンのダブルサイズ  10枚
・コーンビーフの缶 2ダース
・シャネル5番のオーデコロン 500ml 2本
・ニナリッチの香水 1オンス 1個
などなど・・・。

 さっそくカラーサの町中の店を捜し回るが、合計3つないし4つしかない店の中からかき集めたところで、たいした数になるはずもない。特にシャネルの5番など、この地の果てのハエの町では売れるはずもなく、どこにも置いていない。半日かけて走り回ったが、全部のオーダーの2割もの商品がどうしようもなく集まらない。

 オレがアーノルドに、ポートヘッドランドから持ってきてもらってはどうか、と尋ねたが、彼は否定的な答えをモゴモゴと返すだけでその気はないらしい。日頃の様子からみて、彼はポートヘッドランドの店のマネージャー、ボブがあまり気に入らないようだ。

 先日、現在ポートヘッドランドに住む北口さんに電話を入れたら、ボブのことを高く評価するような話をしておられた。どうも、アーノルドは昔の自分の地位を誇るあまり、こんなド田舎の船食業のマネージャーごときに頭を下げるのはどうしてもはばかられる、ということらしい。

 オレが行こうにも道も知らないし、隣り町といっても250キロ先の町である。そう簡単に行けるものではない。ダンピアの町にあるスーパーマーケットにでも行って、少しでも量を集めるしかない。

 しかし、香水の類だけはどうしようもない。S石丸から注文をもらって、すぐさま本社の方へテレックスを入れて、今後予想されるような商品をできるだけ早く送るようにと頼んだが、それも明日までに着きそうにはない。あの船長、本当にコワそうな感じだったなあ・・・・。

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