B-48, 49 納品した船が沈没, 役立たずのピルバラの労働者

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1986年5月C日

納品した船が沈没

船, 沈没, 嵐

 今日の新聞に南アフリカ沖である船(日本船ではない)が暴風雨に遭遇し、暗礁に乗り上げて遭難・沈没したという記事が出ていた。幸い死亡者はなかったということだが、驚いたのはそれが数ヶ月前ダンピアでオレたちが商品納入した船だったからだった。

 この船食業というのは時として下品で気の荒い船乗りを相手にすることがあるため、それ相当の神経の太さを必要とする。だが、いや、まったく、この遭難した船と取り引きした時ほど頭にきたことはなかった。

 詳述は避けるが、船長に始まり、通信長、司厨長と、オレたちの窓口となったこの船の人々は揃いも揃って、全員きわめて不愉快な人たちであった。

 オレとアーノルドは配達を終わって、帰る車の中で、
「もう二度とダンピアへは来るな!」
「あんなブタのクソ船なんか、沈んでしまいやがれ!」
と、ニガリきって、罵りながら帰ったものだった。

 それが実際現実に起こって、信じられないような、ざまあみやがれ、というような、気の毒なような、複雑な心境である

1986年5月D日

役立たずのピルバラの労働者

ストライキ, 労働者

 毎週月曜日に船の入港予定をテレックスで送ってきてくれる代理店から、今日おもしろいテレックスが入った。

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 ポートウォルコットにて、組合がスト突入。当面出入港の予定なし。理由はローブリバー(このポートウォルコットの鉄鉱石会社)の港湾荷役担当官が、ある船の接岸時にホッカー(船のロープをポラードに引っ掛ける作業をしている人たち)を助けたことによる。
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てな内容。これを理解するためには、日本人には少し説明が必要だろう。

 岸壁の周りでは、いろんな人々がいろんな仕事にたずさわっている。パイロット、ポートコントローラー、フォアマン、タグボートの乗組員、船から降ろされたロープを真下で待ち受けるポンポン船の乗組員、そのロープをポラードに引っ掛けるホッカーなどである。

 そして、それらの作業をしている人々がすべてそれぞれの作業別組合に「別々に」加入している。つまり、オーストラリアでは(欧米も同じだそうだが)タイピストはタイピストの、会計士は会計士の、コックはコックの、タクシーの運転手はタクシーの運転手の、それぞれの組合があって、労働者は自分の行なう作業あるいは職種別の組合にそれぞれ加入する。

 ここに会社別に組合が組織されている日本との決定的な違いがある。港の周辺にあっては、上にあげた各作業者たちのどのひとつの組合がストに入ったとしても、船の接岸作業はたちまち見送りになってしまう。どうやら今回はホッカーたちの組合がストに入ったようだ。

 いつもいつもながら、彼らのスト突入の理由というのはホントに信じられないくらいバカバカしいこれまでにあったストの理由というのは、
・作業待機室のトイレットペイパーの色が、白からピンクに変わった。
・作業待機室にいつも備え付けてあるコーヒーやミルクが品切れになっていた。
・ポンポン船で作業中、岸壁からタバコの吸い殻が落ちてきた。
・岸壁突端のパーキングエリアに駐車できるスペースがなかった。
など。

 以上は冗談ではない。文明国家と目されるこの国で実際ほぼ毎月起こっていることなのだ。上に記したような理由で、まるで子供がだだをこねるかのようにして起こるストは、早くて2日間、長くなると1週間、10日に及ぶこともある。そのおかげで、船の人々は何日も何日も陸を目のまん前にしながら入港できないでいる。

 想像するに、今回の接岸に際しホッカーの二人が緩衝岸壁でいつもの通り待機していたところ、港湾荷役担当官(この人はホワイトカラー職)が何かの仕事で緩衝岸壁へただ降りていったというのが、スト決行の理由ではないかと思う。

 彼らの組合の論理を思えば、その担当官は彼ら二人の職を横取りしようとしてやってきたとでも判断したのだろう。さらにウソのような話だが、もし二人のうち一人が緩衝岸壁から風に吹かれて落ちようとするのを。誰か他の作業者が助けても彼らは同じような判断を下すことになる、とアーノルドはいう。

 実際、岸壁の周りを始め、列車で運ばれてきた鉄鉱石を取り出し、山脈のようにパイルに積み上げ、スクリーンを通して船へとコンベアベルトで搬入するというこの港でのシステム、全長300キロに及ぶ列車のシステム、そして大陸内部300キロにある鉱山でのシステム、これらすべての場所で働く人々は、われわれ日本人の想像をはるかに越える勤労態度・意欲の持ち主たちだ。

 早い話がここピルバラではうちのレイをもう少しガラ悪くさせて、その脳ミソの半分をぬか味噌に入れ替えたような人間ばかりが働いているということだ。

 彼らはできるだけ少なく働き、できるだけ多くの権利を得ようとする。その徹底ぶりは組合のストの例が顕著に示すごとく、もう絶望的にガキっぽいの一語に尽きる。

 彼らはただ意志のないロボットのように働き、自分たちのものと定められていない仕事や上から指示されない仕事には絶対に手を出そうとはしない。それらは彼らの職務範囲を定めた契約には記されておらず、組合も互いにそういう行為を厳しくけん制し合うからだ。

 この100%硬直した勤務体制をロボットたちはこの上なく愛しているとは思えない。しかし、彼らの基本的に労働を忌み嫌うような姿勢は、究極的にこのような体制を打ち立ててしまった。

 日本船の人たちはこの国のストを、仕方がない、十年前と比べてまだましになったよ、と苦笑する。しかし、こんな状態をむざむざ仕方がないだけで、彼らも看過することはなかろう。第一、鉄鉱石を待ち受ける製鉄所始め、船の遅延によって迷惑をこうむる各方面の人々がこんなやつらの怠慢をいつまでも容認するはずがない。

 昨年、日豪の貿易収支は、史上初めて日本側の輸出超過となったそうだ。その理由がこの町に住んでいると実に実によくわかってくる。

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