B-13 仕事場は恐怖の岸壁

1986年1月E日

仕事場は恐怖の岸壁

岸壁, ローダー, 搬出

 ライトバンに商品を満載し、昨日の船へと向かう。積み込みは船から十数人の韓国クルーとオレたちで、まったくの手作業でやる。積み込みが完了し、司厨長に確認をもらい、最後に船長から支払いを受け、船長とアーノルドがインボイスにサインを交わして、すべての仕事は完了した。

 仕事の流れそのものは至極シンプルなものだ。だが、あの恐怖の岸壁での積み込み作業には、もうまったく絶望的に閉口した。

 今日積み込みした船がつながっているイースト・インターコース・アイランド(EII)岸壁は日本の大都市の港にあるそれとはまったく違う。この岸壁は鉄鉱石を船へ搬入することだけを目的に作られた搬出専用の桟橋で、船から積み荷の積み出しは一切できない。そのため、この桟橋はきわめてシンプルな造りでできている。

 鉄鉱石はストックパイル(置き場)からコンベアベルトに乗って運ばれ、桟橋の上に取り付けられた巨大なローダー(可動式積み込み機。HITACHIのマーク入り)から船のハッチへ流し込まれていく。

 このEIIに入る鉄鉱石運搬船は16万トンから23万トン積載の巨大船がほとんどで、船の長さも250メートルから320メートルと長大である。したがってローダーは岸壁の上に敷かれた長さ約300メートルのレール上を前後にスライドして、6個ないし10個ばかりある船のハッチの中へ順番に鉄鉱石を注ぎ込んでいく。

 桟橋は荷重を抑えるため、簡略に作られた鋼構造物で、端から端までの長さは約400メートル。その総幅員は約8メートル。幅員の半分以上をコンベアベルトが占め、残りの幅3メートルを車や人が作業できるスペースにとってある。ローダーはこのコンベアベルトと作業スペースをまたぐ格好に構築され、それがレール上をゆっくりとスライドしていく様は、まさにどう猛なチラノザウルスを連想させる。

 われわれが車を停めて作業をするあたりまではレールは敷かれておらず、ローダーに押し潰されるような心配はない。だが、いざローダーがピーピーと危険を知らせる発信音をたてながら、こちらの方へ迫ってくるのを見ると、横を流れるコンベアベルトのガーという唸り声にも何かせかされるような気がして、仕事など放っぽり出して、その場からスタコラと逃げ出したくなってしまう。

 そして桟橋は海面上約12メートル(潮の干満により差はあるが)の高さだが、その上の作業スペースの縁には、ただ高さ25センチほどの木製のブロックが据えられているだけでしかない。重い荷物を担いで歩く時、ちょっとでもバランスをくずそうものなら、掴まるところなどまったくなく、まっさかさまに海まで落ち込んでいく。

 このあたりの海にはサメがうようよいるというし(実際、このあたりの海水浴場はサメよけの網に囲まれている)、落ちればたちまちやつらのオツマミになってしまう可能性もある。まったく、こんなクサッた場所でサメに食われてあの世行きなんてことだけは勘弁させてもらいたい。

 桟橋から船までの商品搬入は、すべて人力によってしかできない。ライトバンからオレたちが昨日箱詰めにした商品をまず岸壁におろし、みんなで一箱づつそれらを担いで船へと運んでいかねばならない。

 そのルートは、まず桟橋の横の鉄製の階段を降りて、桟橋の下の方に取り付けられた管理用通路を渡って、桟橋と船との中間に設けられた海面上高約3メートルの緩衝岸壁まで降りる、そして船からその緩衝岸壁まで降ろされたタラップをつたって船に上がり、冷凍食品は冷凍庫へ、野菜等は冷蔵庫へ、その他は所定の倉庫へ搬入していく、という具合。ようするに海上での「ビルの建築現場」みたいところだ。

 荷物の中には米のように1袋25キロという重いものもある。車から船まで全長150メートルぐらいのそのルートを上ったり下ったりしている間に間違って誰か海へ落ち込まないか、あるいはせっかく持ってきた商品を水の中に放り込んでしまわないかと、まだ手慣れないオレにはこの作業はまったく気が気でしようがなかった。商売仇のシーレーンはこの作業を毎日のようにやっているんだろうが、よく事故なしでやっているもんだと感心する。

 そしてこのピルバラの地にあって、この手の屋外作業で何よりもたいへんなのが、この狂ったような暑さである。今日の最高気温は39度。この乾燥した土地にあっても汗は滝のごとく流れてくる。

 そしてさらにその汗に群がるハエの多さには、頭が狂ってしまいそうだ。目といわず口といわず鼻といわず、水分のある人間の身体の部分は、この乾燥した砂漠の地では、すべてハエの格好の休憩所となるため、このピルバラでは屋外では常に手でやつらを追い払う動作をしなければならない。

 だが、両手に荷物を抱えて歩けば、無防備となった顔に向かって、やつらは情容赦なく、待ってましたとばかりに群がり、まったくもって防ぎようがない。暑さだけ、あるいはハエだけならばまだなんとか耐えられようが、二つ一緒では、もう人間の許容範囲を越えている。

 ピルバラの夏はこれからだぜ。ケン。
というアーノルド。
 ホント、まさにここは地の果てのFucking place(どうしようもない場所)だー!!

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