B-28 すわ初受注は突然に!!

1986年3月A日

すわ初受注は突然に!!

握手, 初受注

 今日午後2時ごろカラーサへ戻って、事務所でアーノルドに移民局での出来事を報告していた時だった。

 電話がリリリと鳴った。アーノルドが受話器を取って相手に語りかけたため、オレは隣りの部屋の自分の椅子に戻って、コーラを飲んでいた。

 アーノルドは電話の相手との会話にやや問題があるようだ。どうも相手の話す英語が通じにくい様子である。そして相手が、ジャパニーズがどうした、という言葉が聞き取れたらしく、アーノルドは「ケン、ちょっと代わってみてくれや。」
と、オレに受話器を預けた。

 一応、
「Hello.」
と、英語で話し掛けてみると、その電話の相手は、な、な、なんとひと月前の、あのS石丸の一等航海士さんであった。

 彼は静かに言った。
「ああ、ハルナさんですか?キャプテンが今回はお宅に注文を出したい、と言ってますけど・・・。」
「・・・はあ・・・・???」
「それで、あのう、できましたら・・・・、できるだけ早く本船までおこし願えませんでしょうか・・・、ということなんですけど・・・?」
「は、は、・・はい!!!!!」

 言葉少ない一等航海士さんの言葉は、まさに晴天のヘキレキ。文字通り、砂漠に大雨であった。

 彼によると、シーレーンは船が岸壁に接岸すると同時にいつものように乗船してきたが、船長が今回はわがPOAの方へ、という意向をすでに固めていたため、S石丸はシーレーンを追い返してくれたのだという。

「今すぐまいりま~~す!」
と大声で答えて、電話を切る。
 アーノルドとオレは、「ヒャッホー!」と叫び声を上げながらライトバンに飛び乗って、前回の航海でS石丸が着岸したのと同じダンピアのEII岸壁へとすっ飛ばした。

 EIIまで25キロの距離がいつもはあっというまに過ぎるのに、今日はなかなか着かないことにアセる。フルスロットルで、片道一車線の砂漠道を対向車と何回も正面衝突しそうになりながら、前にいるすべての車をオレたちは追い抜いていった。

 岸壁に着いて、車を停め、一生懸命の急ぎ足ながらもオレについて来れないアーノルドをもどかしく思いながら、本岸壁の階段を落ちるように駆け降り、緩衝岸壁へと渡り、タラップを3段飛ばしで駆け上がった。

 当然のごとく、真っ先に船長のところにあいさつ。船長は例のニコニコ顔でオレたちを迎えて下さり、オレは、
「遅れまして、本当に申し訳ありません。」
と、文字通り、ヒラに深々と頭を垂れた。

 実際、遅れましてもへったくれもあったものではない。パースから帰ったばかりのオレは、S石丸が今日ダンピアに入港してくることさえ知らなかったのだ。オレは血が出るほど強く頭をかいた。
 船長は、
「まあ、よろしくお願いしますよ。」
と、相変わらずのニコニコ顔で答えただけだった。

 アーノルドは、日本へ行った時に覚えたのであろう、首を上下に動かす日本式おじきモドキのアクションをつくろって、これまで見せたことのないような丁寧さで、最大限の謝辞を送っていた。

 これが、思わぬかたちで、思わぬスピードで、わがカラーサの店が初めて日本船から受注した記念すべき瞬間であった。

 アーノルドとオレは注文の内容を確認するため、喜色を満面に浮かべて司厨長の部屋へと入っていった。司厨長は前航の人とは変わって、横浜出身の人が今航から乗船されていた。

 新しい司厨長はやはり、接岸後すぐにあいさつに来るようにとの注意をされた。アーノルドとオレはは「申し訳ない」と平あやまり。あとは二人とも顔面をすべて笑顔にして、あいさつした。

 だが、いざ司厨長から注文をタイプした紙をもらった瞬間、オレは、あっ、ヤバイ、と思わざるをえなかった。というのは、その注文の内容が今までやってきた3、4隻の韓国船やフランス船とまったく違っていたということ。また注文のいくつかの商品の在庫がまったくないということ、そしてその量が絶望的なまでに多いということだった。今のカラーサの店の在庫ではこの注文のうち、少なくみても半分は供給できそうにない。

 オレが心配そうなそぶりを見せたので、司厨長も、
「おい、大丈夫かよ・・・?」
と心配顔だ。だが、アーノルドは平気の様子。
 彼が、
「不可能のことなどこの世にひとつもない。人間は月へも行った。明日の午後1時までに、必ずこれらの商品すべておもちいたします!」
と、大見得をきったので、司厨長もやっと安心されたようだった。

 船を出たオレたちは小走りでライトバンへと向かった。どえらくラッキーな、突然のことだったが、これは正真正銘、日本船からの初めての受注だ。

 オレたちは喜びを隠せない。ライトバンになだれ込むように飛び込んで、席に座った瞬間に、
「Ha ha ha ! We made it !」(ははは、やったぜ!)
「Thank God!」(すごいぜ!)
「We fucked off Sealanes!」(シーレーンをぶっとばしてやった!)
と、オレたちは狂気乱舞で叫び合い、喜色満面で石よりも固い握手を交わしたのだった。

 アーノルドはもちろん、オレもかつてはモノを売ることを生活の糧とした人間だ。商売が成立した時、特に初めての客先からの受注がいかに難しいかを知り尽くしているオレたちには、今日はまさに赤飯を炊いてお祝いしたいほどの、記念すべき日なのである。このあとの事務所へ帰るまでの車の中、オレたちは大いに盛り上がって、互いのこれまでの健闘をたたえ合ったのだった。

 ところが、事務所に帰ってスタンバイの用意を始めると、やはりいくつかの商品を除いてほとんどの商品の在庫がない。トワイニングのナントカとかいう種類の紅茶とか、カントカいうフランスの香水だとか、コアラのぬいぐるみのバカでかいやつだとか、今までの韓国船やフランス船の注文にはまったくなかったもの、聞いたこともないものばかりである。

 特に今のオレたちのこの倉庫には香水がただの一つもない。香水は免税品であり、街の化粧品店で手に入れても、それを販売するのは販売価格を買い入れた価格よりもはるかに低く抑えねばならなくなる。アーノルドはなんとかなる、とタカをくくっているが、はたしていったいどうなることやら、はなはだ心配である。

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