B-29 大失敗

1986年3月B日

大失敗

失敗, がっかり

  韓国船相手の場合、在庫にない商品を注文されるとアーノルドは勝手にその類似の商品を代わりに持っていくということをよくする。今日の場合もその調子で、揃わない商品の代わりに異なる商品を配達することになった。香水など入手不可能なものは配達しないという。

「こんなんで、本当に大丈夫なのかな・・?」
とオレが怪訝そうな顔で言うと、
「なあに、大丈夫さ。」
と彼はそっけない。のん気というのか、太っ腹というのか、無責任というのか、オレには理解しがたい神経だ。

 商品を揃えるのに手間取り、揃えてからインボイス、税関用の書類を大急ぎで作成して、船への配達は結局1時間も遅れてしまった。司厨長にさんざん文句を言われながら、乗組員の人たちの力を借りて商品を大急ぎで積み込んだ。

 汗まみれ、ハエまみれの半地獄の積み込みが終わって、次に司厨長が商品の確認をする段になった。そして心配した通りのほぼ地獄の大騒ぎとあいなっていく。

 司厨長が、
「これ頼んでないよ。」
と言うと、
「あっ、それは・・あれの代わりです。」
「あの香水は?」
「いえ・・・、ありませんでした。」
「これ、こんなにたくさん頼んでないよ。」
「いや、そ、それは・・・、あれが足りないから、それで埋め合わせをしました。」

 まったく、日本の常識で考えてこんな調子でお客さんが納得するはずがない。
「こんなものいらないから、持って帰ってくれよ!」
「あれをなんとかして持ってきてくれ!」
 司厨長はドナる。こんなひどいのは彼にとっても初めてのことだったんだろう。このおとなしい司厨長もこのあまりの事態に我を失ってしまったようだ。

 オレは黙って彼の言う言葉をアーノルドに通訳する。アーノルドは大真面目な顔で、
「それはできませんでした。」
「われわれは最善の努力をしてここへやってきたんです。」
というきわめてオーストラリア的かつ非日本的な論理を繰り返すのみ。

 オレはそれをストレートに日本語になおして伝えることなどできようはずもなく、ところどころそれを日本風な言い回しにわざと変えて、司厨長にアーノルドの言い訳を通訳した。

 司厨長はアーノルドの方にはまったく目を向けず、オレに向かってブツブツガミガミと文句のありったけを浴びせっ放し。アーノルドはなんで目の前の司厨長が不機嫌そうな顔をしているのかわからず、
「ケン、彼いったいどうしてあんなにシケた顔してるんだい?」
とオレに尋ねる。

 あああ、これが文化の差というものであろうか・・。ほうほうの体ながら商品とインボイスの確認を終わり、司厨長のあとについて船長のところへ。司厨長は船長室に着くまでの階段の途中まで文句を続けた。

 船長の前で、司厨長は「このどうしようもないバカヤローたちが」と言いたいのをじっとこらえて、抑えた口調で今回のオレたちの仕事がいかに不正確、不誠実であったかを報告された。アーノルドとオレは船長から嵐のようなお叱りがあるか、と眉をひそめてちっちゃくなって、静かに彼らの向かいのソファに腰かけていた。

 だが、報告を聞き終えた船長は、
「あっ、そう。今後、気をつけて下さいね。」
と、一言おっしゃっただけで、なんとかインボイスにサインを下さった。

 この時ばかりはさすがにこの船長のいつものニコニコ顔には少しばかりの陰りが見られたが、この人はホントに気持ちのやさしい人だと思う。

 司厨長の言う通り、本来なら船長から罵倒されても仕方がないところである。まったく日本の常識を冷静になって思い出せば、今回など罵声どころかバケツの水を浴びせかけられても弁解の余地ゼロでしかない。この船長には、今後ともこの商売をここで続けていく限り頭が上がることは決してないだろう。

 アーノルドは帰りの車の中で、なんであの司厨長はあんなに機嫌が悪かったんだ?と不思議そうにオレに尋ねてきた。オレは日本ではオレたちがやったようなことはどんな商売人もしないからだと答えると、まだ、なんでだ?と怪訝そうな様子である。ああ、やれやれ。この調子では日本船への対応を整えるには相当の時間がかかりそうだ。

 実際これまでオレたちは日本船から注文を取るための対応はまったくなに一つ整えてこなかった。日本船の乗組員の注文の傾向を事前にある程度つかんでおけば、こんなことにはならなかったのだ。初めてのことずくめで、そこまで気が回らなかったというのはこのイージーな国へ来て、そしてこのクソ暑い町に来て、少々ボケでいたということとともに言い訳にしたいところだが、やはり店としては大いに反省せざるをえない。

 明日もまた先月と同じように、新O島丸がS石丸のあとを追ってこのEIIにやってくる。前航であのガラッパチ船長はなんとなく仕事をくれそうな気配を見せていた。

 だが、今日のこのオレたちのこの不甲斐なさを考えると、はたして真っ正面から注文をお願いにあがっていいものなのか。今日のあの司厨長のニガリきった顔を思い起こせば、いやがうえにも不安とプレッシャーがオレの上にのしかかってきた。

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