1986年3月E日
大失敗その2=ボロカスの洗礼

あーあ、今日はまったくS石丸の時以上のタイヘンな一日だった。身体全体が絶望的な無力感に包まれている。
今日の午前中もまたせっせとカラーサの町中をメいっぱい走り回って、商品をかき集めた。そこから初めてインボイスと通関用書類を作成、タイプし始めたため、船に着いたのが予定より3時間も遅れ、なんと出航の1時間前。代理店の人間がすでに出航の手続きのために乗船していた。
全速力でタラップを駆け上がり、船に入るなり、オヤジさんの「バカヤロー!」のドナリ声。
それに返す言葉もそこそこに、乗組員のみなさん全員にすみません、すみませんと頭を下げて、積み込みをお願いして回った。
大急ぎであの危険な岸壁で積み込みをしているあいだにも、オヤジさんと司厨長にボヤきまくられ、積み込みが完了したのが、出航前30分になってしまった。船ではもう税関吏と代理店の人間が出航の手続きを完了していた。
そこから、
「あの商品はどこだ!?」
「あっ、あれはこれに換えました。」
「この商品はどうなった!?」
「そ、それはありませんでした。」
「なんでだ!?」
「在庫がありません。」
「なんでプライスリストにある価格とインボイスの価格が違うんだ!?」
「それはかくかくしかじかで、ご容赦願います。」
「おまえ、モノがないんやったら、注文取りに来た時点で、そう言え!」
「すみません・・・。」
「おまえ、こんなんで商売できると思てんのか!?」
「・・・・・・」
「アホンダラーー!!」
チェックをしている間、オヤジさんから嵐のような罵声がオレに浴びせかけられた。司厨長もその横で何やらブツブツ言いっ放しである。オレは肩をすぼめ背を丸めて、やり場のない敗北感にただうなだれるだけ。
そしてトドメは、インボイスに載った商品の一つが届いていなかったことであった。確かに倉庫の冷蔵庫からライトバンに積み込んだはずの缶入りバターの箱がなぜか船上のどこにも運び込まれていない。船の電話を借りて、事務所にいるアーノルドにすぐさま持ってくるように頼んだ。司厨長はあきれ返って、もう何も言わない。
船長は、
「商品を忘れて配達に来るとは商売人に、ゼッタイあるまじき行為やな。」
と、オレの心臓に氷のナイフを突き付けるような言葉を吐きながら、インボイスに商品受け取りのサイン。それと同時にパイロット(水先案内人)が乗り込んできて、出航の時間が来た。
「おまえなあ、シーレーンやったら、こんなこと絶対せえへんでえ・・・。」
と、という司厨長の言葉に追われて船を出る。税関吏と代理店も船を降りて、タラップが上げられた。
オレは岸壁でアーノルドを待った。ポラードにかけられていたロープが機械操作によって一気に解き放たれる。船長が船橋の突端に出て、パイロットと何か相談しているのが見える。
入港時とは異なり、出航には船は自力のみでゆっくりと離岸し前進する。オレはこちらを向いているように見える船長に小さく手を振ってから一礼した。
缶入りバターの箱を持ったアーノルドの巨体が岸壁に現われたのは、全長320メートル、19万トン積みの新O島丸がたたずむオレの頭上を飛ぶカモメと同じ大きさになったころだった。
1986年3月F日
何が何でも在庫を揃えろ!

S石丸そして新O島丸でのコーヒーのしぼりカスでできたガムを噛むようなニガい反省から、オレとアーノルドは山のような商品の発送依頼を本社へテレックスで送った。
オレが新O島丸の船の上でどんなメに遭ったかを散々わめき散らしたため、さすがのアーノルドもかなりマイったらしい。
このままでは一度は各船ともわれわれに注文をくれるかもしれないが、2度目からはまさに2度ともらえないということにもなりかねない。本社のトーヘンボクたち。早く、商品!商品!
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