B-53, 54 楽しきフィリピン船, ピルバラの労働者英語はチンプンカンプン

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1986年6月B日

楽しきフィリピン船

フィリピン, 国旗

 初めてフィリピン船からの注文を受けた。昨日の朝、代理店から早朝にポートウォルコットに入ってきたフィリピン船に行ってくれ、との電話が入って、アーノルドがオレに行ってみてくれという。

 レイをたまには倉庫の掃除以外にも使ったらどうかという思いがあって、フィリピン人という人々と今までほとんど付き合ったことがないということから、あまり気がのらなかった。だが、実際行ってみて大いに楽しき仕事となった。

 日本の船会社にオペレーションされているというこの船の乗組員は総数約25、6名。船長と機関長を除けば、平均年齢約27、8才か。日本船がだいたい16名の乗組員総数で平均年齢が30歳以上であるのと比べると、やはり少し雰囲気的に落ち着き具合が違う。

 だが、若いということからオレには話が合わせやすくありがたかった。それに彼らはほぼ全員ある程度の英会話能力を身に付けており、コミュニケーションにはなんの支障もない。

 今日、積み込みを無事に終えたあと、食堂でオレと同い年の司厨長とキリンビールを飲みながら話していると、他の乗組員たちが寄ってきてオレたちに加わってきた。みんな一様に、
「へぇ、あんた、日本人なの?」
「この国に住んで、どんな感じ?」
「給料はいくらもらってるんですか?」
などと、オレに興味を持ってあれやこれやと訊いてくる。

 そのうち、もうすぐ夕食だから一緒に食べていけよ、ということになり、そのままミニパーティとなってさらに話がはずんだ。この船は日本からここへ直接やってきていたため、みんなサッポロビールやらマイルドセブンやらぼんちあられやらを持ち寄って、オレを中心に若いもの同士、この夜しばしバカ話にふけったのだった。

 そのうちに誰かが、
「あんたはフィリピン人みたいだ。」
「オレもあんたを初めて見たとき、思わずタガログ語で話しかけそうになったよ。」

とか言いだした。

 実際、今のオレはまずフツーの日本人とはちょっとかけ離れていると自分でも思う。顔立ちはもともと目が大きく、マツ毛も長い。それにこの土地の太陽で、顔色は彼らと同じようによく日焼けしている。

 調子にのって、
「オレはフィリピンへ行ったら、フィリピンの女の子たちにモテルだろうか?」
と、オレが訊くと、
「大丈夫。オレがミスフィリピンに相談に行ってやる。」
とか、
「オレの妹なんかどうだ?」
などと、オレを喜ばす術も心得ている。

 先日の新O島丸での命懸けの一件も頭をかすめ、ほどほどにして家路についたが、ホント外国の人たちと心が通い合う時というのは楽しいの一語につきる。この船の人々と会ってから、オレのフィリピンという国に対するイメージは大きく変えられたといってよい。

1986年6月C日

ピルバラの労働者英語はチンプンカンプン

労働者, 英語

 このピルバラ地方で使われている英語は、もともと特徴があるといわれるオーストラリア英語の中でもきわめて特徴的である

 ここで、ロードトレインを徹夜で走らせてきてカラーサにたどり着いたばかりの疲れ切った運転手と、その荷を受け取る倉庫番の男との会話を想定してみると、だいたい以下のようになる。
G’day!
How are you going?
Not bad, mate. Yourself?
I’m fucking good, mate. How many fucking kangarooes did you kill last night?
Uooh, maybe fucking two million, mate .
Hahaha! you’re fucking bloody bastard, ah?
Yeah,I was just fucking thinking about the fucking chicks I saw at the fucking pub in fucking Perth, you know, mate .

てな具合である。

 これを和訳するには多大の労苦を必要とするが、とりあえずやってみると(大阪の天王寺あたりのなりたてのチンピラやくざたちの口調を想像してもらえればありがたい。)
オッス!
元気でやってんのか、おまえ!
まあ、こんなもんちゃうか。おまえはどうや?
オレはサイコーにええわい。ほんで、ゆうべおまえカンガルー何匹殺したんや?
うーん、そうやな、2百万匹ぐらい殺ってきたったわい。
ははは、おまえ、どうしようもないやっちゃな。
ああ。そやけど、夕べはもうパースで見た女のケツが目の前にちらついてもうて、どうしようもなかったんじゃ。

とでもなろうか。

 ちなみに、上によく出てくるFuckingという単語には何の意味もない。元来それはfuck(性交する)という動詞の動名詞であるが、その意味では使われていない。

 ふつうの教育を受けたオーストラリア人がこの単語を使う時は相当の不快感を表明する時などに限られ、女性はパンパンのおネエさんの類以外の人は使わない。

 ところが、このピルバラではこの単語は一種にカッコよさのような、あるいはむしろ礼儀のような感じで、ただ単語のあいまあいまに(だいたい単語ふたつにfuckingがひとつの割合で)挿入されているだけだ(注:日本人がこれを使うには、よほど英語に自信ができたあとか、よほどケンカに自信にある場合だけにしておくべきである)。

 そして、この地方で話される英語の発音はふつう日本で習う英語の発音とはもうまったく違っている。われわれが学ぶような辞書通りの発音をする人はほぼ皆無だ。

 ここの男たちはアヒルがチューインガムを噛みながら、しゃべっているかのように、ペチャペチャ、レロレロレーという感じでしゃべる。先にあげたような会話をこの発音でやられると、おとなしいアメリカ人の女の子なら、さっさとこの場を逃げ出したくなるんでは、とさえ思う。

 ここへ来てもう4ヶ月になるが、いまだに上のようにして話すこの土地の人々が火星人に見えることがある。おそらく、日本でふつうの観光客相手に通訳をやっている人が、このピルバラへやってきたなら、その自信は5分以内にコッパミジンに砕け散るであろう。

 まあ、こんなところに旅行を企画する旅行代理店なんて、まったく狂っているとしかいいようがないが。

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