B-56 貞操あわや危機一髪

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1986年6月E日

貞操あわや危機一髪

逃げる, 脱出

 いやー、今日はホント絶体絶命だった。永遠に守っておかねばならない男の操をあやうく奪われそうになってしまった。

 あの有名な日本を代表するといわれる船会社にもあんなケッタイな人がいるのか??とまったくキモをつぶした。

 これまで2回のあいさつが実り、3航海目にしてやっと「ホモ丸」(仮称)から受注。ここの司厨長はよくしゃべる愉快な人で、前々航から前航といろいろおもしろい話を聞かせて下さり、今回もお会いするのを楽しみにしていた。

 そして無事に積み込みが終わって夕食をごちそうになったあと、司厨長が、まあオレの部屋で一杯やれよ、と誘って下さった。彼の部屋で特選のブランデーをごちそうになり、酒と彼が世界中で仕入れた超ケッサクな話にしょうこりもなくオレは心地好い酔いに包まれていった。

 船の人々と酒を飲んで話をしていると、必ず出てくるのが世界中の夜の女性たちの話であるが、この夜も例にもれず話題はごく自然とそっちの方へと流れていった。

 ブラジルで娼婦さんの実の父親からコトの前に腹一杯夕食をごちそうになって、恐縮するほどの接待を受け、そのあと肝心の箇所までもが恐縮して使えなくなったという話。

 インドで1回戦の料金が80円ほどの店に行って、騙され身ぐるみ剥がされ、素っ裸で通りを全力疾走で逃げ、たまたま歩いていたおまわりさんに助けてもらったという話。

 アムステルダムの飾り窓の行きつけの店では、彼はいつ行ってもモテモテで、カネなど一切払わずにすんでいるという話。

 そんな話を続けているうちに、この司厨長のもともと一風変わった話し方に一段と磨きがかかってきた。

 そのうち彼はアクション付きでいろいろ説明を始め、その一方でオレにはグラスにブランデーを注いで、まぁグッといけ、グッと!と、けしかけてくる。

 そのなかなかシャレた味のブランデーにオレが酔ったのを見届けたころ、彼はおもむろにソノ手の写真集(無修正のやつ。外国製)を取り出してきて、あれやこれやとそれらの写真の一枚一枚を事細かに説明を始めた。

 そして、
「オレなんか、これ好きだねえ。」
といって、女性が男性のディグ(英語で男性自身の意のスラング)に唇を寄せている写真をオレの顔の真ん前に広げて見せてきた。

 その時は、ああそうですか、と軽く受け流しておいたが、その次にいよいよホモの写真集を出してきたころから、なんとなく怪しい雰囲気が部屋の中に漂い始めてきた。そして、とうとう司厨長が、

「オレ、ここんとこ、ゴブサタでさぁ・・・、誰かいないかと、コマッチャッてんだよねぇ・・・。」
といって膝をにじり出してきた時、オレのつま先からマイナス30度ぐらいの冷気がドドドとこみ上げ、股間から背筋にかけて金縛りを受けたようなシビレがビビビと走った。これはヤバイ!

「まあ、グッといけよ。」
「あのう・・・、車で来ておりますので、もうこれ以上は飲めません・・・。」
「なぁに、気にすんなって。あとでここでゆっくり酔いをさましていけばいいよ。」

 オレがソワソワし始めたのをさかんに彼は落ち着かせようとする。かといって、この部屋の中に漂い始めた澱んだ紫色のバラが咲いたようなムードにオレは耐えられるはずもない。

「あのぅ・・、今日は疲れましたので、そろそろ失礼させていただきます・・・。」
と、オレがようよう脱出を試みると、彼はなんと、
「それなら、オレのベッドで寝ていけよ。」
と、真顔でおっしゃる。

「いや、ボクは切れ痔でして・・・。」
という、言い訳にもギャグにもならないセリフが浮かんだが、それをどうにか喉チ〇コで蹴落して、どうも、どうもと手を小さく振りながら、床に置いてあったヘルメットと書類の入ったバッグをひったくるようにして拾い上げ、オレは半ば走るようにその部屋から脱出を試みた。

 司厨長は、
「おい、せっかく注文をあげたのに・・、もう少しいろよ!」
「もっと、ウマイ酒あるんだぜ。」
とか言いながら、オレの腕をつかんで引き戻そうとする。それを振り払い、引きつった顔でオレは、
「いや・・・、帰ります・・・!」

 司厨長はフラフラしながらタラップへと急ぐオレのあとを追いかけながら、
「おいあんた、酔っ払ってんだから・・、少し休んでいったほうがいいよ・・・。」
「車で来てんだろ・・・。オレのベッドで酔いをさましていけよ・・・。」
とか、オレの操が欲しいんだというのと同じ意味のセリフをオレの背中、いや、オレの魅惑のヒップに投げかける。

 オレがとうとうタラップを降り始めても、彼はまだオレを止めようとする。
「無理して帰んなくてもいいのにぃ・・・。」
と、最後に丸山明弘ばりの声でおっしゃった時、彼は半泣きの顔をされていた。

 オレはべろべろの酔いで足をもつれさせながら、何度か階段を踏み外しながらも何とか這う這うの体で緩衝岸壁から本岸壁の階段を駆け上がり、そこでまだ船のデッキにたたずむ司厨長に手を振った。

 そして早足で車の中に入ってドアを閉めた時、思わず、
「Oh, my God!」
と、車の天井に向かって叫んで、オレはハンドルにひれ伏した。

「あああーーー、なんでこんなんなんねん?なんで・・・?」

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