1986年8月C日
メルボルンにて-自転車野郎のフィルと再会

フリーウェイを抜けてメルボルンのシティに入ると、久々の大都市の空気に触れることができた。
バスストップからホテルへと歩いた時の雰囲気はパースやアデレードのようないわゆる「Big country town(大きな田舎町)」とは一味違って、どこかしら大都市の緊張感がある。
ここではフィルにたいへん世話になった。シェアハウスの同居人が旅行に出たということで、その人の部屋に5日ばかり泊めてもらえることになった。
フィルはパースにいたときノースロッジに出たり入ったりを繰り返していたが、ある日何を思いついたか故郷のメルボルンまで自転車で帰ると言いだし、とうとう本当にやり遂げた男である。
やつが挑戦したのはたしか去年の10月ごろ。通ったナラボー平原のあるオーストラリア南部が春を迎えたころで、パースで夏の暑さを知っていたオレは春とはいえ道中さぞ暑さには悩まされることだろうと予想していたが、やつによると暑さは全く気にならなかったという。
むしろ一番注意しなければならなかったのは、大きなトラックが横を通り過ぎたとき、その真後ろに生じる風に巻き込まれてバランスを失いそうになり、後続の車と接触しそうになることだったという。
何人もの日本の若者がこの国を自転車であるいはオートバイで周遊する計画を立てそれをやり遂げてきたようだが、実際、真夏を除けばこの広大な国を一周するのも思うほど難しくないのかもしれない。
どこもよく路面が整備された道路、主要幹線には100kmから120kmごとに必ずあるホテル付きサービスエリア、治安の良さ(コソ泥などはいないという意。ガラの悪い奴らはクサるほどいるが)、そして何よりも平坦な地形、という具合に条件はかなり揃っている。
北部特別州あたりを走るのは綿密な計画が不可欠ではあるが、シドニー・パース間くらいであれば自分を試す良い機会になるだろう。
フィルはこの半年間くらいなんとハリを習っているそうで、うまくいけば1年くらい中国へ勉強しにいくことになるとか言っていた。ハリもこの国で静からブームになりつつあるということだが、あいつが実際にハリを持って診療しているところを想像すると笑いをこらえきれなくなる。いくぶん神経質なところがあるやつなので、そういう細かい仕事には向いてるのかもしれないが。
中国に来るときにはちょっと足を伸ばして必ず大阪に来いよと言って、フィルに二度目の別れを告げた。
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