C-07 首都ウェリントン素通り-南島であわや遭難

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1986年9月C日

山, 遭難

 北島の最南部にある首都ウェリントンは人口も20万人と小さく、あまり旅行者には魅力的な町ではないようで、ほぼ素通りして船で南島へと渡る。南島の港ピクトンの手前数十キロではフィヨルドの中を船は抜けていく。

 フィヨルドの幅は狭いところでも500メートルくらいか。両側に見える地形は荒々しい。平坦な土地が多いオーストラリアではこういった立体的な自然の美を味わうことはまれであったがため、しばし自然の美に見とれた。

 政府観光局のスタッフのプラン通り、ピクトンから木材の港町ネルソン、そしてグレイマウスと南島の西岸にある小さな町をバスで下っていった。そしていまだに思い出すあの町の裏山でのプチ遭難には心底まいった。

 正午過ぎのバスまでの時間をもてあましたため、グレイマウスの町を一望しようと一番近い山に登ってみた。海抜200メートルもないくらいの小さな山で、山道の標識もところどころにきっちりと植え込まれている。

 頂上まで難なく上り詰めることができた。ところが頂上部の林をうろうろと歩き回っているうちに登ってきた道がわからなくなってしまった。どうせ小さな山だ、来た道は太陽の角度から確認できたし、その方角へ向かっていけばわけなく帰れると思ったのが運のつき。オレはそれから約1時間深い藪の中で半ばパニックになって一人もがき狂うことに。

 道に迷うにつれ、樹々は太陽を隠すほどに深く高くなり、地形も起伏を増し、細長い枝が行く手を遮る。3メートルものほぼ垂直な崖をよじ登り、巨大なクモの巣のように行く手をふさぐ細長い枝に足をすくわれ、中ぶらりんになりながら、来た道を探した。

 30分ほど格闘したころオレの頭に浮かんできたのは、数か月先の現地の新聞の見出しのこと。
「アジア人の遭難者らしい男の死体、XX山にて発見される・・・」

 その後なんとか這う這うの体で登山道を探り当てて、バス停まで戻ることができたが、それまで滑って転んで、着ていた服と靴は泥だらけ。顔や手は小さな擦り傷だらけで赤く腫れあがっていた。

 でももしあれが曇りの日であったなら、太陽が見えず方角の判別がつかなかっただろう。ひょっとしてあの新聞の見出しが現実に印刷されることになったかもしれない。

 見知らぬ土地特に海外ではあまり単独での無理はすべきではないと肝に銘じた。

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