C-13 免税店での仕事や通勤・居住事情、シドニーから出ないワーキングホリデーの旅行者

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1986年10月B日

キリビリ, オペラハウス, ハーバーブリッジ

 Redfernのロッジもイギリス出身の管理人さん夫婦がやさしくて居心地がよかったが、免税店の仲間が住んでみてとてもいいところだと聞いて、オペラハウスから300メートルほど海峡を挟んで北向かいにあるキリビリという町のアパートに転居した。

 そこは文字通り信じられないくらい素晴らしい居住条件を備えていた。窓からハーバーブリッジを眺められ、シティまで直線距離で1kmちょっとという位置にありながら静かな環境にあり、何よりも店までフェリーで直通通勤できるのがこの世のものとは思えないほど楽しい。

 フェリー乗り場から出た船は南に向かう。目に入るのは、左にオペラハウス、右にハーバーブリッジ、そして真正面には巨大な摩天楼群。

 わずか5分ほどで、フェリーはサーキュラキー(波止場)に着く。サーキュラキーはマンリービーチ行きなどフェリー群の最重要ハブ拠点で、シドニーに来た旅行者は100%ここにやってくる。オレの店はサーキュラキーからわずか徒歩2-3分のビル街の中。

 こんな通勤を毎日続けるオレはほんとなんと幸せ者なのだろうか。こんなシドニーの魅力が人々をここへ引きつけ、留まらせることになるのだろうとスーパー納得だ。

 店では売り子として旅行代理店が連れてくる日本からのツアー客の応対に当たった。この手の市街地にある免税店にとってはツアー客というのはまさにドル箱=カネのなる木で、特に新婚旅行のカップルをまとめたツアーなどは両手に抱えきれないほどの量のお土産を買って帰ってくださる。

 仕事としてはこの手の店の店員はほんと楽なものだ。ツアーが出る前にはすでにこの免税店の日本側代理店が日本旅行やJTBなどのツアー会社と話をつけており、添乗員や現地ガイドがツアー客を連れて来てくれる。

 我々は何もしなくてもあれもこれもと買ってくれるお客さんに日本語で応対し、買い上げ代金を計算、領収書を付けて渡すだけ。何となく日本のデパートのバーゲンセールで次々と押し寄せるように来てくださるお客さんに品物をどんどん売っているようなものだ。

 シドニーには数十もの免税店があるが、そのほとんどが日本のワーキングホリデーの若者を店員として雇っているという。事実、われわれの店の店員約15名のうち10名が日本人だった。通り向こうの店でも同じようなものだと思う。

 何かちょっと偏っておかしな感じだが、あの日本人ツアー客の買いっぷりからして、自然のことなのかもしれない。ワーキングホリデーの若者たちにとっても雇用者にとっても利のある関係だと思う。

 我々の店で働いているワーキングホリデーの若者たちは四国と北海道を除いてほぼ全国からまんべんなく集まっていた。みんなそれぞれここシドニーの生活を大いにエンジョイしているようだ。共通しているのは、彼らがみんな日本から真っすぐにシドニーに入りここに完全に根を張ってしまって、どこへも出ていく様子がないということ。

 たしかにこのシドニーというところは日本人にとって地球上でもっとも生活しやすい町の一つなのは間違いなさそうだ。気候はいい、町は美しい、都市機能は整っている、心地よい住居で生活できる、ほとんどあらゆるモノとサービスが手軽に手に入る、仕事は豊富にある、治安も良い、などなどけっこうずくめである。

 それに聞いた話によると、ルームシェアリング(ひとつの家を数人で共同生活すること)のシェアラーとして、日本人の若者はとても人気があるということだ(理由はよくわからないが、カネ払いが良い、整理整頓ができる、協調性がある、とかかもしれない)。カラーサのことを思うと、自分にはちょっと信じられないが・・・。

 このシドニーが観光客だけでなく、日本企業のビジネスマンにも間違いなく人気であることに疑いはない。

 しかし、この町に来るまで西オーストラリア州のパースや地の果ての町カラーサに長く住み、ナラボー平原を渡って、アデレード、メルボルンを見てきた自分には、ワーキングホリデーでこの国にやって来てシドニーのみに滞っている若者たちが、非常にもどかしく見えてくる。

 シドニーでの生活は安楽椅子に座って白ワインのソーダ割りを飲んでいるような心地よいものであるが、シドニーだけがオーストラリアでは決してない。

 自分には、オーストラリアの魅力とは、褐色の大地に地平線まで真っすぐに伸びる道路、無数の羊たちを抱く緑の牧場、見上げれば吸い込まれていくような藍より青い空、気も荒いが素朴で親切な人々、といったものの中にあるような気がする。

 せっかく一年もの間この国に滞在することを許されているのなら、できるだけこの国を多面的に見るようにすればいいのになあと無性に思う。

 裏を返せばシドニーという町がそれほど魅力的だということになるのだろうが・・・。

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