1985年11月C日
苦しいレッドスター

レッドスターが苦しい局面にさしかかった。
スーパーリーグではリーグ戦の成績が2位と3位のチームが準決勝をやって、その勝者が1位のチームと決勝で対決するという決まりになっている。
レッドスターは4位のチームと勝率が大きく離れているため、このままいけば2位または3位の成績で準決勝進出はほぼ確実だ。しかし、しかし、プレーヤーが集まって来なければチームは作れない。
うちにはセッターが二人いるが、一人はそれまでの出場試合数が規定数に満たないため、準決勝と決勝には出場できないというリーグ規定に引っ掛かってしまう。もう一人のやつは西オーストラリア工科大学の学生で、試合のある金曜の夜にレストランでアルバイトをしなければならなくなって、これまた準決勝、決勝の日には出場できなくなったという。
さらに信じられないのは、エースのマークがガールフレンドとの時間が金曜の夜に取れないといって、チームをやめさせてくれと言いだしたことだった。このマークは自分がセッターをしていて最も頼りにしていたやつだっただけに、もう残されたオレたちのファイティングスピリットは、はるか金星の彼方にでも飛んで消えて行きそうになる。
これでオレを含めレッドスターのスーパーリーグのチームはたったの6人きりになって、各チームは必ず8名以上ベンチに入らねばならないと決めたリーグの規定に引っ掛かり、オレたちは試合の出場すらおぼつかなくなってしまった。
以前、試合に負けて頭に血が昇りきっておさまらなかったとき、レッドスターのシニアチームに対する自分の考えを日本と比較しながら10枚ぐらいのレポートに書きなぐって、トニーに提出したことが二度あった。
それに対し、多分に思い当たるふしもあったのか、トニーも感謝の意を表してくれて、そのうちの一つを試合の始まる直前にみんなの前で読み上げてくれたことがあった。おかげでその強敵相手に試合にはフルセットの末なんとか勝利をおさめ、これでこのリーグ戦のペナントに大きく前進できた、と思った矢先のこのチーム内の不和である。
思えば、まったくの新入りで、どうしても他のメンバーから浮きがちだった自分にあそこまで言われて、やつらのプライドが傷つけられて、それがここまで尾を引いてしまったのかもしれない、との反省も成り立たなくもない。
しかし、あの二人のセッターやマークというチームメイトの無責任さ、身勝手さ、根性のなさは言語道断、開いた口がふさがらない。ガールフレンドの都合とかで、たったあとひと月ばかりのリーグ戦を抜け出し、チームメイトに多大なり迷惑と失望とを与えるとはこれまで一緒にやってきた者としては情なさ過ぎて、もう声も出てこない。
オーストラリア人の大きな特徴として、「Sorry(ごめん)」と一言謝れば、「No worries, mate.(心配すんな、ダチ公)」ですべて許してしまう、実に寛容な人間関係があげられる。
これは自分自身が何か失敗した時に周りから言われると、実に暖かく、救われたように感じ入ってしまうセリフだが、あまり大きな寛容さを期待されても、それにも我慢の限界がある。
オレたちは、あくまでこのスーパーリーグの優勝という二文字を掲げて、これまで約3ヶ月に渡る長いリーグ戦を戦ってきた。それをあのような、まさに取るに足らぬ理由で、そのみんなの共通の目的をブッつぶして回って、はたしてやつらは平気なんだろうか。
この国におけるこの寛容さというものは、文字通り両刃の刀といわざるをえない。ホント、やつら、いったい何を考えてやがるんだ。
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