1987年2月C日

チャンギ空港から390番のバスに乗って、再び宿があるベンクーレンストリートへと向かう。マニラの空港周辺のあの雑踏を抜けた直後に見るシンガポールの町並みは、前回マレーシアからバスで入国した時と同じく、心にほっと安らぎを与えてくれる。島の東南岸添いを一路ダウンタウンへと向かうフリーウェイは、改めてこの国がまぎれもなく先進国の一員であることを思い起こさせてくれる。
経済統計でみたこの国はNIESの他の3地域と同じように扱われ、日本と比して少し生活水準に差があるように思われがちだが、どっこい実際この国の人々の暮らしぶりを間近に見た日本人のうち、何人が日本の方がシンガポールより高い生活水準をもつ、あるいは豊かである、と言い切れるだろうか。かなり多くの人がシンガポールの方が高い生活水準を持ち、豊かである、と言うのではないかと思う。
まずこの国には政府の抜群のコントロールにより、土地の投機問題などというものは存在しない。よって小さな国土ながらも土地を十分に高度利用(建物の高度化)することによって、市民は広々とした居住空間を確保することができている。
そして道路、公園などの目につくインフラの充実度は世界の最高水準をいっているのではないだろうか。ダウンタウンを離れても街路は総幅員をゆったりと確保し、その上を樹々が覆い被さるように飾りたてる。そして少し主要道から外れれば、そこにははるか太古の昔からの原木、巨木が生い茂る。この町を自分の足で歩けば歩くほど、この町全体が公園を作るがごとく作られたのではないだろうかとの印象を強くする。
シェントンウェイあたり金融街の摩天楼、オーチャードロードやスコットロード添いのきらめくようなショッピングセンターと巨大ホテルがズラリと並ぶ様は、この国が誇る世界第一級のエリアである。東京でいえば丸ノ内と銀座に相当するエリアであるが、風格ではそれらに劣るもののこちらの方がはるかに「人間」を強く意識して作られていることは、ここを一度訪れてみれば一目瞭然であろう。
日本人ビジネスマンが好む海外赴任地の「3S」というのがあるという。それはシドニー、サンフランシスコ、そしてこのシンガポールの三つの都市のことを指すのだそうだが、その三つの都市をすべて訪れた経験をもつ自分にも、それは十分肯定しうるといえそうだ。
この三つの都市に共通することといえば、日本からの直行便が数多く出ているということ、町並みが美しいこと、住居に質の良いものが得やすいことなどが上げられる。家族を連れて赴任するビジネスマンにとって、実際これらは何よりも心の支えになるに違いない。
しかし、このシンガポールは治安が格段にいいこと、物価が安いこと、教育を受けた質の良い労働力が豊富なこと、などの点において、他の二つの町よりもさらに仕事や生活がしやすいのではないだろうか。それに大多数の住民が我々日本人と似た顔をした中国系の人たちということで、より町に溶け込みやすいという点が、家族の人たちにとってもありがたいことだろう。
ほめついでにもうひとつこの国をほめれば、この国の人々は実によく教育を受けているな、と感心することだ。この国で実際に仕事をしたわけではないが、街角で応対する人々だけをみても、それが容易に推察できる。
我々旅行者がしょっちゅうお世話になる旅行代理店、郵便局、銀行といった場所で働くシンガポールの人々の能力は、例えばオーストラリア人あたりと比べても一段高い。我々の問いかけに対して彼らは実に的をえた答えを返してくれる。
オーストラリアを皮切りにこれまで、東南アジア、オセアニア7ヶ国を回ったが、このシンガポールにおいて初めて日本並のサービスを受けることができた。やはりこの点が西ヨーロッパの旅行者たちにとって、この町が格好の休息場となっている最大の理由だと思う。
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