1986年9月A日
オークランド-ニュージーランド最大の都市-親切なスタート

正午過ぎにシドニーのキングスフォートスミス空港を飛び立って、飛行機はニュージーランド北島にあるこの国最大の都市オークランドに降り立った。3時間のフライトで2時間の時差のあるところへ飛んでいけば、飛行に載った時と降りた時とでは合計5時間のズレがある。
入国を終え、この国の貨幣を手に入れ、YMCAに泊まりの予約を電話で入れて、空港を出たころには陽はとうの昔に暮れていた。
次の日の朝、さっそくオーストラリア総領事館へと出向く。そこでパスポートのスタンプを調べられ、自分が半年も滞在期間をオーバーしたことを副領事のメガネのオッサンにさんざん追及された。
オレのパスポートには今年2月1日から延長滞在を許すスタンプは押されておらず、最後の滞在許可は入国後1年たった今年3月時点までしか与えられていなかった。
オレは何も悪いことはしていない、あくまで社長に頼まれて移民局が延長を暗黙の裡に認めたのだと思われる、ということを訴えた。
「では西オーストラリア州の移民局に連絡して、君のことを少し調べてみよう、その内容いかんで再入国の可否を決定する、十日後に連絡をくれたまえ。」
という副領事の言葉を了承せざるをえなかった。やれやれ、またまたビザをめぐってまな板の鯉となるに至ったのだ。
オーストラリアにワーキングホリデービザで1年いたやつがニュージーランドへ渡って、オーストラリアに再入国を申請した場合、通常ほぼ問題なく3ヵ月の再入国が認められるらしく、あの副領事の剣幕には多少面食らったが、オレとしては何の落ち度も犯していない。再入国のチャンスはないはずはないとの確信をもって総領事館を後にした。
この国に関する予備知識ほぼゼロで来たため、オーストラリア総領事館を出たその足で、ニュージーランドの政府観光局まで情報を仕入に行く。
ところ変われば人変わるというが、この政府観光局でアドバイスをくれた女性たちは同じような姿かたちをしたオーストラリアの女性と比べて、まあなんと穏やかで親切だったことか。
カウンターに座って、オレがこの国を旅行するための知識がほぼ全くないこと、二十日後にはオーストラリアに帰る必要があること、などを告げた。するとこのやさしき担当者さんは、よかったら私が考えるプランに沿って行ってみては、と言う。
地図やカレンダーを示して、この日はここ、この交通手段を使ってこの日はあそこ、などと順を追って説明してくれたおかげで、だいたいこの国で二十日間どこで何をするべきかわかってきた。特に何の計画も持たなかったオレは、その場で彼女が作ったプラン通りやってみると返事した。
このプランのためには「トラベルパス」というこの国を網羅する鉄道、バス、船の周遊券を買った方が断然お得だということで、それを購入することにした。
そしてそこから彼女は3,4カ所の関係方面へ電話をかけてくれたが、その電話のうんざりうるほど長かったこと。相手は一応すぐに電話を取る。しかしちょっと待ってくださいと言っただけで、次に話しかけてくるまで10分もまたされるということも2度、3度。
しかし彼女は辛抱強く、微笑みをたたえてじっと受話器を耳に当てて待つ。オーストラリアで1年半過ごした後だけに何とかじっと座って待つことができたが、これが日本からまっすぐ来た後であったなら、さんざんじれたあげく、このパスを買うのをあきらめてしまったとも思う。
すべての手続きを終えたのはオレが事務所に入ってから1時間後だったが、不思議と時間を感じなかったのはなぜだろう。担当者はじめ他の女性スタッフたちの穏やかな応対が心を和ませてくれたからではないだろうか。
通常オーストラリアの観光局ではちょっと込み入った相談をすると、担当者はあからさまに嫌悪感を示すことが多いが、ここではそんなことはまったくなかった。彼女たちは心から旅行者にこの国での時間を楽しでもらおうと努力していると見受けられる。オレのこの国の第一印象は非常によいものとなったといえる。
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