D-15 ど熱いマニラのエルミタの夜 パート1/2

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1987年1月B日

マニラ, エルミタ

 フィリピンでは英語が公用語になっているため英語を話す人がきわめて多く、地元の人々と交わすコミュニケーションが楽しい。シングリッシュと呼ばれるシンガポール人の話す英語よりもよりふつうの英語使いが多く、話がしやすい。

 また1月のマニラは湿気が少なく気温もそれほど高くない。これで排気ガスとゴミさえなければこの季節のマニラは実に快適だ。

 そしてフィリピンにいてなにより助かるのは、フィリピン料理の味が自分には中華料理なみに日本食に近く感じられることと、ビールが信じられないくらい安いことだ。

 フィリピンではどこで何を食べてもおいしいものばかりで、しかも安い。伝統のフィリピン料理や地元のコックによる日本料理もなかなかのものだが、キアポ(マニラの下町、商店が立ち並ぶ庶民の町)で食べたハンバーガーは世界一ではないかと思えたほど、まさに伝説的な味だった。

 ドイツ人パトリック(フィリピンにいた1ヶ月のほぼ半分を共に行動した男)と一緒に、初めて食べた日から3日連続でわざわざこのハンバーガーを食べるためだけにキアポまでのこのこ出ていったほどであった。

 そしてこの国ではビール(小ビン)が店頭で3ペソ半(約20円!)で買える。オレたちはまさに水代わりに真っ昼間からビールをくらうことができた。ホントこの国で1年住めばアル中になるのはきわめて簡単だ。

 マニラといえば、バンコクのパッポンと並ぶ、東南アジア最大の歓楽街エルミタを擁することで有名である。パトリックはドイツでエルミタの夜の話をばっちり仕入れてきたらしく、マニラの夜にやたら興味を持っている様子。

 やつは23歳。身長193センチの巨漢だがアジアへは今回初めてとかで、やつはしきりに、
「ケン、頼むからエルミタまで一緒に行ってくれ。」
と、一人で行く勇気がないのか、オレに頼んできた。
「しゃあないやっちゃなぁ・・・。」

 オレはこの夜「しかたなしに」ジプニー(米軍払い下げの大型ジープの後ろの荷台を改造した小型乗合バス。フィリピンの風物詩のひとつで、ぜひ試乗の価値あり。楽しい。)に乗って、わが宿YMCAからエルミタまでパトリックを連れ、のこのことネオンきらめく夜の町へと出かけていった。

 フェルディナンド・マルコス大統領追放、そしてアキノ大統領就任までの争乱中、毎日毎日市民でもの中心地としてオーストラリアのニュースに登場していた広大なリサールパークの横をかすめて、ジプニーはエルミタ地区のデルピラストリートへと下っていく。このデルピラストリートと、それに南北平行に走るマビニストリートの2本をメインストリートとして、無数のサブストリートを合わせた歓楽街がエルミタである。

 デルピラストリートではカウンター兼ステージの上でホステスたちが踊るゴーゴーバーがケバっとネオンを散らしまくるが、マビニストリートではライブハウス、レストラン等、フツーの人が気軽に行ける店も多く、少し健全。

 日本人のエッチ観光ツアー客向けのクラブ(なぜか日本人向けの店は、東南アジアではみんな高級で値段も高い。)はサブストリート沿いに多いようだ。

 オレたちはデルピラストリートの少しはずれ、ビール一杯が15ペソという安いバーへと入っていった。

 ドアを開けるとそこはディスコ音楽の洪水。だが夕方7時とまだ宵の口のためか、客はまばらであった。店の大きさは日本の喫茶店ぐらいか。入って左手の壁添いにステージが据えられて、5人の女の子がバンコクのゴーゴーガールたちのより少しおとなしい感じの水着姿で踊っている。オレとパトリックはそのステージの縁に作られたカウンターの椅子に腰を降ろし、フィリピン人ご自慢のサンミゲルビールを注文した。

 正面で踊っている女の子たちはみんな若い。東洋人は西洋人やアラブ人あたりと比べるとかなり若く見えるのが一般的で、その東洋人の中でもフィリピンの人たちは男女ともにさらに若く見える。

 そして、この店で働く女の子たちは実際、非常に若い。オレの左手の椅子に座って話かけてきた女の子は、アタシは15歳よ、という。そして彼女が言うには、前で踊っている女の子たちの年齢は18歳から13歳 (!!) だという。

 このエミーという女の子はこの仕事をやり初めて約1ヶ月たつとのこと。ボーイフレンドと別れて、半ばヤケ気味に始めたということで、まだプロという感じがしない。日本からの客もたまには来るらしいが、タガログ語(マニラ近郊の言語。フィリピン全土の公用語となりつつある。)も英語も話せない人がほとんどで、みんなビール一杯飲んだだけでそそくさと出ていくという。

 オレはこのエミーとしばらく話をしていたが、パトリックの横には誰も座らず。やつはメガネを下げて、ひとりふてくされていた。

「おい、パトリック。調子はどうだ?」
「ああ・・、ケン。そろそろ出たくなったよ。」
ということで、その店を出た。やつは自分の隣りに女の子が付かず、プライドを傷つけられらしく、黙ったまま歩いている。

「もういっちょ行くかい?」
「・・・うん・・・・。」
 オレはやつのことを気遣って、もっともハデハデにやっている店を指して、あそこにしようや、と誘った。

 次の店はさっきの店よりか少し小さめだが、客の入りは超満員で4つのモニターテレビでヘビーメタルのロックバンドのビデオをガンガン鳴らしていた。クィーンのミーハーであるパトリックは「ボヘミアン・ラプソディー」が店に入った時ちょうど流れていたため、急速に気分を取り戻していった。オレたちはカウンターに空きを見つけてもらって、腰を下ろした。

 ホステスの数はさっきの店の2倍ぐらいか。賑やかな店だけに踊っている女の子たちも元気がいい。さっきの店もそうだが客は全員白人だ。パトリックによると半分はドイツ語を話しているという。オレの耳にはオーストラリアアクセントとアメリカアクセントの英語が聞こえていた。どうやらこの3ヶ国だけで、客全体の8割を占めているようだ。

 しばらくふたりで黙ってビデオを眺めていたが、そのうちひとりの女の子がパトリックの右隣りに座った。やつは多少緊張気味で話を始めた。

 オレはそのままビデオに見入ってビールを飲んでいたが、しばらくして横を見ると、なんと横の二人はもうすっかりデキ上がってしまっているではないか。

 パトリックは彼女のハダカの肩に手を回し、ほっぺたをぴったりひっつけ合って、何やら真剣な表情で話し込んでいる。やれやれ、これだから単純なやつは困る。

 そしてまたしばらくビデオを見たあと彼らを振り返ると、なんとあの女の子はパトリックの膝の上に乗せられて、二人はディープキスの真っ最中だ。

 オイオイ・・・、なんじゃいな。もうシャアないやっちゃ。

 オレの左横の椅子には髭面のオッサンが、シブそうな顔をして、黙ってビデオを見ている。これではキレイどころのおでましも期待できそうにない。オレはただモニターを見つめていた。

 ビデオがオレの好きなノルウェーのバンドからカスのアメリカのバンドに変わったころ、突然後ろのほうがやけに騒がしくなったなと思ったら、オレの背中がバンバンと二度強く殴打された。

 アレっと思って振り向くと、女の子が一人ひどく酔っ払って、髪を振り乱しながら大声で荒れ狂っているではないか。

 周りの女の子が急いで取り押さえたが、この女の子はタガログ語(おそらく)で何やら叫びながら、両手を大きく振り回し、まだオレの方に向かってこようとしている。

 マネージャーらしい男が飛んで来て、この女の子を店の外へと連れ出したが、このマネージャーによると彼女はこの店のホステスで、イギリス人のボーイフレンドと口喧嘩して周りの見境がつかなくなりああなってしまったのだという。

 フィリピンの人々はカッとなると我を忘れるということは聞いていたが、女の子があそこまでなるとは・・・。ホント、あの子がナイフでも持っていたら、オレはいったいどうなっていたんだろう。

 3杯目のビールを飲み干したオレは、
「・・あ、・・ケン。・・・・あと・・・1時間ほど・・・このままに・・・しておいて・・。」
と女の子を膝の上に乗せて喘ぎながら言うパトリックを残して、じゃあまた帰ってくるよ、と言って店を出た。

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