D-28 さらにまだあるペテン経験談 2/2

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1987年2月E日

ペテン, イカサマ

 陽の光がようやくその勢いをなくし始めたころ、ジェリーがオレに言った。
「フランク、オレたちはこれからトランプでゲームをしようということになったんだが、どうだ、一緒にやろうや。」
「ええ?トランプかい?」
「ポーカーだ。知ってるだろう?」
「・・・そりゃ、知ってるけど・・。それ賭けるのかい?」
「ああ、少しだけどな。さあ・・・・。」

 そう言い終わる前に彼は腰を上げて、キッチンからトランプを持ち出して来た。
「いいかフランク、掛け金は一回10米ドルだ。ルールは世界中どこでもいっしょだろう。

 初めの10回ほどは終わったところまでは収支トントンできた。しかし、それ以後こちらの雲行きは決して明るくはならなかった。

 15回目を過ぎたころ、オレは40ドルを失い、その後もオレは一度も勝てず、20回目を終えたころにはオレの負けは100ドルを越えていた。

 トランプなんてこの2、3年一度もやったことのないオレはゲームの勘を取り戻すこともできない。それにやつらだけで話す時に使われるタガログ語の響きが、何となくうさんくさく感じられる。たまりかねたオレは言った。

「オレ、そろそろ帰る時間だから・・・。」
「ヘイ、フランク。どうしたんだ?このまんまじゃあ帰れないだろう?もう少しいろよ。」
「いや、もういい。今日はツキがあまりよくないみたいだから・・・・。」
「なあに、そんなのすぐに良くなるもんさ。さあ、行こうぜ。」
「そうだよ、フランク。」
「勝負はこれからだよ。」

 みんな口々にオレを引き止めようとする。薄暗くなった部屋の中で、ジェリー以下5人の目が心なしか異様な光を放ち始めたように思えたオレは、床から腰を浮かせて立ち上がった。

「オイオイ、フランク。まだいいだろ?」
「もう少しいろよ。」
 怒るような口調で止めるやつらの顔が、人間のものとは思えなくなってきた。

「いや、もう帰るよ。」
オレはもう彼らの顔を見るのもいやになってきた。

 ここで男たちのうち二人が立ち上がって、オレの両腕を引っ張ってもう一度座らせようとした。そしてここでさらにもう一人の男が立ち上がりながら、手をジーパンのポケットに突っ込んでナイフのようなものを取り出すのが見えた。

 ヤバイ!
 危険と判断したオレは、両腕をつかんだ二人の男を振りほどき、左側の男のみぞおちに取っておきの右ストレートを食い込ませた。
その男はタガログ語のような音を口から出しながら、両手で床に這いつくばった。

 入り口のドアが少し開いているのが見えた。男たち全員が一斉に立ち上がって、何やらギャンギャン吠え始めたのを横目にオレはドアめがけてオリンピックの100メートル走選手もびっくりの猛ダッシュ。

 ドアを右足で蹴ってブチ開けて、オレは人通りのない薄暗い通りを振り向くことなく、全速力で駆け抜けた。

+++++++++

 実際、このデンマーク人フランクは100ドルだけの損失でむしろ「助かった」といえる。

 というのも、あとで知り合った二人連れのスウェーデンの男たちはまったく同じ手口で、なんと現金とトラベラーズチェック(二人合計でなんと120万円!)、パスポート、国際免許証など、服以外の持ち物すべてを奪われたということであった。

 彼らはそのままスウェーデンの大使館へ駆け込んでカネを借りて、残りの7ヶ月の旅を断念して帰国せざるをえなくなってしまった。

 また二人のスイス人の女の子は、あるフィリピン人女性の家に招待されたが出された飲み物の味がおかしいことに気がつき、恐ろしくなって抜け出してきて事なきをえたらしい。

 もしその飲み物の中に睡眠薬でも入っていたとしたら、カネやパスポートだけではなく、命までもが危険にさらされたかもしれない。彼女たちのうちの一人が看護婦であったため、その医薬品の臭いに気がついたらしいが、まったくすんでのところの危機であったようだ。

 この事件のあと以後デンマーク人フランクのフィリピンでの旅が非常に気マズイものになってしまったことは言うまでもない。このあと会ったすべてのフィリピン人が彼の目にはドロボーに見えてしまったということだった。

 ほんと、この手の類のコソ泥や傷害事件がなくなれば、この国は実に気持ちの良い旅をさせてくれるところなのだが。たった一握りの人たちのおかげで、残りの多くの善良なフィリピン人までもが濁った目を向けられてしまうのが、ホント実に残念だ。

<メモ>

[コメントA]
ちなみにここではフィリピンでのペテン話を多く紹介したが、東南アジア一帯ではどこでも日常が騙すか騙されるかの闘いと言っていい。日本人にはなかなかわからない感覚で、それは現地に行って体感せざるを得ないと思う。
実際1980年代のアジア全域において、日常の買い物などでおカネを払うときに騙されないように神経を使わなくてすむ国は日本以外にはなかったと言える。

[コメントB]
西側先進国から来た旅行者もこの手のアジア的ペテンにはあまり慣れておらず、よく騙されているようだ。そういう意味では東南アジアでの旅では、大勢が同じ部屋に寝泊まりするホステルは旅行者同士での情報交換が簡単にできるので、シングルルームのホテルで泊まるより利用価値ははるかに高いと言える。

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