F-19 南アフリカ人からアパルトヘイトについて初講和

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1987年3月I日

南アフリカ

 アジア側トルコの西南の小さな港町マーマリスに着いた。イスタンブールから夜を徹してバスでやってきたが、ゆうべの山越えの大雪がウソのように、この町に暖かなエーゲ海の太陽が降り注いでいる。

 イスタンブールの旅行代理店の人に教えてもらった通り、この町から小さなボートでギリシャ領ロードス島へ、そこから大型フェリーで地中海を東進してイスラエルへというルートを取ることにしたのは正解だったようだ。もしシリア回りのルートを取っていたら、いまごろはまだ雪景色の真っ只中にいたことだろう。

 暖かさにはそれほど執着のない自分ではあるが、やはりあの過去数日の極寒の中へしばらくは帰る気がしない。今はこの保養地でもあるエーゲ海沿いの町で、マレーシア以来1ヵ月ぶりの明るい青空に身を置くことが心地良すぎる。

 ゆうべのバスで隣同士になった男は白人の若い南アフリカ人だったが、やつの話は極めて印象的だった。

 南アフリカ出身者と話をするとなれば、話題はいやがうえにもアパルトヘイトの話が出てくる。ベルギーのアントワープのユースホステルで南アフリカのケープタウン出身のやつと10分ばかり話をしたが、やはりそのことを避けては通れなかった。第一オレの頭の中には南アフリカの知識といえば、金とダイヤモンドとアパルトヘイトとバス・コ・ダ・ガマぐらいしか入っていなかったのだから。

 ゆうべのやつの話はあの国がいかに難しい状況にあるかをオレに理解させてくれた最初の機会だった。

「あんたは南アフリカのどのあたり出身だい?」
「ヨハネスブルグの南20キロにある小さな町だよ。」
「そこでもやはり年じゅう暴動ばっかり起こってるのかな?」
 オレはおとなしそうなこの男に向かって、かなりぶしつけに質問した。
「いいや、とんでもない。オレたちの町には何の問題もないよ。だいたい世界のジャーナリズムは騒ぎ過ぎるんだ。南アフリカはとても良い国だよ。」
 やつは目を見開いて言った。

「じゃあ、南アフリカには暴動なんてゼンゼンないのかな?」
「それは・・・・・、あることはあるよ・・。だけどそれはごくほんわずかにしか過ぎないよ。外国の新聞やテレビはその小さな暴動が南アフリカ共和国全土に及んでいるかのように描き過ぎてるんだよ。オレの回りにはその手の争いに加わった黒人も被害を被った白人もまったくいないよ。」
「オレは南アフリカの国全体が、年がら年中大暴動の中にあると思っていたよ。」
「ヨーロッパやアメリカの人たちも、あんたと同じようなことを聞いてくるよ。」

「ふぅん。あのぅ、じゃあ・・・、公衆トイレが白人用と黒人用とに別れているっていうのは、ウソなのかい?」
「それは・・・、あったよ・・・・。だけど、・・今はもうそんな区別はなくなってしまいつつあるよ。」
「なくなりつつある・・?」
「・・・もう今はほとんどないはずだよ。」
 オレは、まだあることはあるんだね、と言いかけて、口をつぐんだ。

 やつはイスに座り直して、少々ムキになり始めた。
「だいたい、なんでオレたち南アフリカだけが世界中から責められなけりゃあいけないんだ?アメリカだってつい百年前まではインディアンたちを殺しまくっていたんだろう?オーストラリアだってアボリジニを殺して来たじゃないか。いや、今でさえ殺してるって話じゃないか。そうだろ?あんた、オーストラリアに1年半も住んで、それを見てきたんだろ?」
「・・・・・・。」

「そんな過去や現在を持つやつらが、なんで先頭を切ってオレたちを非難する資格があるんだ?え、そうだろ?」
「それは、彼らが十分反省したからだ、と思うけど・・・。」
「大体、世界の人々は本当の南アフリカを理解していないんだ。いや、理解しょうとさえしないんだ。実際、オレたちの国がどれほどハッピーな国か。ウソだと思うなら、一度南アフリカへ来てみろよ。百聞は一見にしかずだろ?え?通りを歩けば、白人と黒人が肩を並べて歩いてるところや、冗談を言って笑い合ってる姿なんて、南アフリカのどこででも見られるさ。」
「そうなのかい?」
「そうだとも。」

 彼は物静かに話すが語調は強くなるばかりである。
「ケン、これは敢えて言わせてもらうけど、実際オレたち白人の目から見れば、問題は黒人たちの方により多くあると思えて仕方がないんだよ。例えば教育だ。政府は黒人、白人分け隔てなく平等に教育の機会を与えている。学校を建て、生徒たちには教科書を与え、学費は一切無料だ。
 だが、彼ら黒人たちがそこで何をするかって。あんたに信じてもらえるかどうか知らないが、やつらときたら、学校には来ない、来たと思えば窓ガラスを全部割って回る、そして挙げ句の果てには与えられた教科書をライターで燃やしてしまうということなんだ。
 それをあんた、いったいどう思う?オレたちはそういうやつらに対して、いったいどうしたらいいんだい?教えてくれよ!」
「・・・・・。」

「オレたち白人にとっても、より高い教育を受けた黒人たちを見ることは、まるで無教養な黒人を見るよりはるかに喜ばしいことなんだ。」
「あんた、ローデシア、いやジンバブエって国、知ってるかい?」
「ああ、つい最近、初めて黒人の総理大臣が出た国だろう。」
「そうだ。彼ら黒人は選挙権を得ることに成功して、選挙で彼ら黒人の代表のムガベという人を総理大臣に据えたんだ。そして彼らは国名をローデシアからジンバブエに変えたんだ。」
「そうだったな。」

「だけど、こういうこと知ってるかい?あの選挙。あれは1980年のことだったと思うが、あの選挙があの国での最初で最後の選挙なんだぜ。あれ以来、あの国で選挙はただの1度も行なわれていない。
 そして、この間やつらがやってきたことといえば、黒人間で意見の対立があった時に、相手を殺し合うこと、ただそれだけだ。やつらの頭の中には、対立するやつは殺せ、というやつらの伝統的・原始的な考えしかない。そういう国って、あんた、想像できるかい?」
「・・・・・・・。」

「南アフリカの黒人たちも選挙権を与えられたなら、黒人政府が樹立されるだろう。だけどオレははっきり言って、そんなやつらに統治されるのは本当にマッピラ御免だ。
 いずれ南アフリカでも彼らが政権を取る日がくるかもしれない。それは南アフリカを取り囲んでいる環境を客観的に見ればうすうすはわかる。しかし、オレたちはそれまでの間に彼ら黒人にもっと成熟した人間になってもらいたいんだ。」

「・・・・・。」

「それを、やつらは拒否しようとする。・・・・・いったい、オレたちはどうしたらいいんだろう?なぁ、ケン、教えてくれよ!
 いまこの状態で黒人たちが政権を取るようになれば、火を見るよりも明らかに南アフリカの政治、経済、社会は崩壊する。白人、黒人とも同じメにあう。誰だってそんなメにすすんで巡り合いたいとは思わないだろう?誰だって未来が現在よりも暗くなるのは回避したいと思うはずじゃあないのかな?なぁ、あんたならどう思うんだ?」

 以上はオレがアパルトヘイトについて、初めて南アフリカ人と突っ込んで話を時の記述である。そして、ここから少しずつながら、オレの南アフリカとアパルトヘイトに対する思いは積み重なっていくことになる。

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