G-32 モスクで大勢の子供たちに囲まれ大おしゃべりタイム

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1987年5月L-1日

エジプト人, 子供

 アフリカ最大の人口600万人を抱える大都市カイロの中心タハリール広場から足を東に向けると、しだいにオフィス街からアパート街へと街並みは変わっていく。

 街の中心部の建物はすべてコンクリート造りの6、7階建てで、カイロの都市的土地利用は東京や大阪以上に進んでいるといえなくもない。ただ、建物、道路ともにメンテナンスが悪いがため、さながらこの町は中古都市との印象がある。

 エジプト人も非常に人懐っこい人たちだ。ジュースを買った店の人や、バスを待っている時、横に居合わせた人から、
「日本人ですか?」
「エジプトへようこそ!」
「そこへの行き先はわかるかい?」
などと英語で声をかけられることの多いこと。

 トルコ人といいエジプト人といい、イスラム教徒が多い国では、誰にでも別け隔てなく声をかけるのが、むしろ儀礼的なことなのかもしれない。

 それにありがたいのは、日本人だと言うと向こうの表情が和らぐこと。日本についてはプラスの印象があるようだ。

 イスラム地区のマーケットを抜けて、オレはモハメドアリモスクという寺院へ足を向けた。そしてオレはそこで信じられないほどの歓迎を受けることとなる。

 モハメドアリモスクは例のボクサーのがさつなイメージとは完璧にかけ離れた、言葉で表現するにはあまりにも美しいモスク(イスラム教の寺院)である。カイロ市の東の端の小丘に立つこのモスクは、バックの紫紺の空にその白い巨体を浮き上がらせていた。下から見上げたこのモスクは、「ねぇ、わたしきれいでしょ?」とおもねる若い女のように、自らを誇示する言葉を投げかけてくるかのようだった。

 急な坂道を登って入り口までたどり着いたものの、残念ながら今日最後の開門時間はすでに過ぎてしまっていて、結局モスクの中へは入れず。オレはモスクの周りを一周し、カイロが一望できる裏の広場の端っこの石造りの塀に腰をかけた。

 目の前のモスク、眼下に広がるカイロの町並み、そしてその向こう遥かにくっきりと浮かぶギゼーのピラミッドを繰り返し繰り返し見回していると、たった今まで歩いてきた、あの限りなく雑然としたカイロの街すべてがこの上なく美しく見えてくるから不思議である。

 疲れも手伝ってオレは石塀の上に仰向けになって寝転がり全身を伸ばし、地図を顔の上に乗せてまどろんでいた。心地よさが体全体に沁み通っていった。

 だが、数分後になんだかオレの周りが騒がしくなってきた。気になってさっと地図を顔から取り去ると、突然3、4人の女の子が一斉にオレの顔を真上から覗き込んだ。

 彼女たちは微笑みながら叫んだ。
「Hello !」
「Hello !」
 オレはニコっと笑って答える。
「Hello !」

 彼女たちはみんなもともと大きな目をさらに大きくして、うれしそうな顔をした。そしてここから嵐のような質問が続いた。

「Do you speak Arabic ?」(アラビア語は話せますか?)
「No, sorry.」
「Are you Japani ?」(アラビア語では日本人のことをJapani(ヤパーニ)という。)
「Yes.」

 エジプトの女性はみかけよりかなりフケて見えるのが常だが、オレの目の前の彼女たちはどう見ても6、7才にしか見えない。どこかで英語を習ってそれを使ってみたいんだなと感じたオレはできるだけ簡単な表現を使って話した。

 「Hello」と「Are you Japani?」の二つのフレーズのマシンガンのような応酬が2、3分続いたところで、周りの子供たちの数がさらに増えてきたことにオレは気がついた。その3才から10才ぐらいの男女の子供約10人も次々とオレに話しかけてきた。

「Hello !」
「Are you Japanese ?」

 同じようなフレーズが続くが、ヤパーニがジャパニーズになったのが少しの変化といえば変化である。オレの顔をニヤニヤしながら見つめて、みんなガヤガヤと何やら議論しているようであった。

 子供というのは世界中とこへ行ってもその可愛らしさに変わりはない。オレは愛想を崩して、ただニコニコと彼らの顔に見入っていた。

 そのうち、
「Why did you come to Egypt?」(エジプトへは何をしに来たんですか?)
という、まともな英語がどこからか聞こえた。見上げると背は低いが少しだけ年上らしい顔をした少年がニコニコしながらオレの方を向いていた。

「I just came to see around, mate.」(僕はただ観光で来ただけだよ)と、オレはオーストラリアアクセントで親しげに答えた。

 この彼は実に上手な英語を話した。このモハメドアリモスク裏の広場は近くの子供たちの遊び場になっていること、みんな外国から来た人と話をしたがっていること、日本人が団体ではなく一人で来たのは珍しいので、みんなオレの周りに集まっていること、などなどを話してくれた。

 どこで英語を習ったのか知らないが、このアラビア語圏の国にあって、あの年で彼はよくもあんなに上手に外国語を話せるものだ。エジプト人の多くはかなり上手な英語を話すがそれにしてもあの幼さで・・・。ホントつくづく感心する。

 彼は、
「Have a nice time in Cairo !」(カイロを楽しんでくださいね)
と言って、どこかへ消えていった。

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