G-38 ルクソールの現代は「バクシーシ!」

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1987年6月D日

子供, バクシーシ

 過去のエジプトの偉大さは余りある各地の遺物を見るたびに再確認させられる。だが、過去の偉大さを思い知らされるにつれ、現代のエジプトの「偉大でなさ」が際だってくるのも事実。非常に残念だが、現代のエジプトはどう贔屓目に見ても偉大な国家あるいは文明国家だとはいえそうにない。

 昨日ルクソール(エジプト中部の王家の谷や数々の神殿などを訪れる拠点となる遺跡の町。この国最大の観光地)の街で自転車を借りて、ナイル川の西側へとフェリーで渡り、王家の谷までサイクリングというか軍隊並みの自転車登坂訓練の末にたどり着いた。

 夏至に近いこの灼熱の頃に乳灰色の岩山の奥地深くへと向かったが、最後の上り坂は死ぬほどの長さと暑さで、オーストラリアでバレーボールをやっていなかったらおそらくたどり着けなかったかもしれない。

 今日はまた自転車を借りて、ルクソールの田園地帯をのんびりと走ってみた。いくつかの神殿を通り、昨日必死で行った王家の谷を取り囲む霞がかった山々をうっとり遠くに眺めて、オレはこのルクソール町と周辺一帯の田園風景をゆっくりと味わいながらクルーズしていた。

 自転車という乗り物は、自然との一体感を味わうには最高の乗り物だ。雑踏を離れると、耳には耳たぶに当たる風の音しか聞こえない。自転車で旅行する人なんてのは、まさに訪れた土地それぞれの思いが体全体にしみついていくことだろう。この自転車というやつがヒッチハイクと並んで、究極の旅の輸送手段かもしれない。

 が、残念ながら、ここエジプトではそうは簡単にロマンチックな気分を長くは味わせてもらえないようだ。家々の前を通るたび、あの「バクシーシ!(お金をくれ!)」という子供の叫び声が飛んでくる。特にここルクソールは、数々の遺跡を擁するエジプト最大の観光地であるがため、人々はすっかり観光客ずれしてしまったようだ。

 ある一軒の農家の前を通りがかった時、その家の中から何か叫び声が上がったと思ったとたん、素っ裸の子供が6、7人一斉に「バクシーシ!ブルース・リー!」と叫びながら飛び出てきて、自転車のオレを追いかけてきた。

 気分がハイだったオレは、一番小さな目の大きな子がとてもかわいらしくて、一瞬ポケットにある小銭を、と思った。が、やめた。

 それは、ここでなにがしかの銭を与えてもそれは決して彼らのためにはならず、むしろ彼らの物心両面の貧困を増長ずるだけだと思えたからだった。

 アスワンハイダムの建設にドイツ、ロシア両国の力を借り、スエズ運河の浚渫(底の土砂を掘削し、取り去ること)に日本の力を借り、古代遺跡の研究に独、仏、英の各国に頼るエジプト。果たしてこの国に5千年前の栄華が再びやってくるのはさてさていつのことになるんだろう。

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