F-15 ギリシャ入国-西ドイツと日本の差トーク-生きる目標や自殺の理由

Select-Language

1987年3月E日

日本, 西ドイツ, トーク

 ユーゴスラビアとの国境を越えてギリシャに入り、深夜少し前、エーゲ海添いの町テサロニキでもう一人の同乗者だった中年の西ドイツ人男性が降りていった。彼はそこから鉄道でアテネまで行って、しばらくのんびりしたあと、エーゲ海のどこかの島で仕事を見つけて、当分そこに住みつく腹づもりであるらしい。

 ここからオレが最後の同乗者となり、トーマスと二人ドライブになった。トーマスは疲れた様子だがまだ運転してくれている。彼の集中力を切らさないように何とか会話しながらの耐久ドライブは続く。

「随分思い切ったことをするんだね、彼。」
「彼は少し変わった人だったよ。どうも西ドイツがいやになったって感じだった。」
「西ドイツがいやになったって?あの豊かな国がかい?」
「うん、ドイツの国が住みやすくなり過ぎたからってことかもしれない。」
「・・・・・?」

「ケン、日本では自殺が多いんだろ?」
「ああ・・・?」
「実はドイツでも最近、自殺がとても多いんだ。それも十代の若者がね。」
「へぇ。またなんで・・・?」
「理由はいろいろだろうけど、一口にいって、彼らに目標がないからだろうと思うよ。」
「・・・・・?」

「彼らは欲しいものはなんでも手に入る。早いやつは十代の半ばにして独立して、一人住まいを始める。そして、学費無料の学校で勉強に励んだあと、仕事にありつく。そしてそこでもし失業しても、政府が失業手当などで手厚く保護してくれる。要するに、彼らが何をしようが彼ら自身の生活そのものは一生最低限保証されているってことさ。
 そこで彼ら若者たちは生きる目標を見つけられなくなってしまって、そんな自分に絶望する。そして自らの命を絶つという方法をとる。それが自殺の理由なんだって、どこかの本に書いてあったよ。」

「信じられないなあ・・・・。」
「ほんと、信じられない話だね。」
「日本ではちょっと考えられない話だ。」
「日本ではどんなやつが自殺するんだい?」

「そうだな、受験、就職に失敗した若者、恋愛に失敗した人、病気を苦にした人、借金を抱えてニッチもサッチもいかなくなった人、あと仕事で回りの人の圧力に屈服させられたような人、ってな人たちだと思うけど・・・。」
「はぁ、気の毒に。」

「だけど、生活が満たされ過ぎて自殺する人なんて聞いたことがないなぁ。そこまで日本という国は豊かではないということだと思うけど・・・。」
「日本では政府があんまり国民の面倒を見てくれないのかな?」
「はっきり言って、日本の社会保障制度は西ドイツやオーストラリアほど優れていないと思う・・・。」

「日本ってアメリカに次いで経済力があって、西ドイツよりもまだ大きいっていうのにかい?」
「・・・そうだね・・・。」
「政府って、国民の生活を豊かにするためのコントロールをするところではないのかなあ。なあ、ケン。どう思う・・・」
「・・・そうだなあ・・・・。」

「日本の政府は経済を大きくすることには長けているけど、国民の生活を豊かにすることは、あまり得意とはしていないってことになるのかな?」
「・・・そうかもしれない・・・。」

 オレはグーの音も出ずに、ただトーマスの質問に中途半端な生返事を繰り返すだけだ。トーマスには何ら驕る素振りはない。ドイツ人特有のマジメな顔で、自分の疑問を整理しているだけのようだ。

 トーマスは続ける。
「あの中年の男の人にとっては、もうドイツという国に目標とか刺激とかいうものが見つからなかったのかもしれない。ギリシャの島で何か生きる目標を得ようとしているように見えたなあ、あの人・・・。」

 いろんな生き方があるものだ。豊かさを蹴ってまでも自分の生きる目標を得ようとする、か。もちろんそれもドイツという豊かな祖国を最後の砦として持っているがゆえにこそできる大胆な行為と言えるんだろうが。ただそれって素直にうらやましいなあと自分には思えてならない。

<前のページ><次のページ>
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする