G-21 「English people are the best people in the world.」

Select-Language

1987年5月C日

イギリス, イングランド

 キューブ8号室に居を転じた。もう1号室のやつらとはやっていけない。イングランド人(イギリスの中のイングランドの人)の若い男2人とデンマークのヤンツとともに住むことになり、こっちはかのアート博物館と比べて天国とまでは言えずともはるかに上等だ。だが、ここでも新たなカルチャーショックに見舞われることとなった。

<メモ>日本語ではイギリスとイングランドとはほぼ同じ意味に使われることが多いがその違いは明確にあり、別に説明することにする。

 オレと相部屋のロビンは北部イングランド出身の19才。ヤンツと相部屋のマークはロンドン近郊育ちの20才、ともに他人に迷惑をかけないという家庭教育をしっかりと受けた好青年たちだ。彼らとの共同生活には何の文句もない。

 ただ自分が驚いたのは、彼らが30才のヤンツと29才のオレとに向かって、年齢の開きなどまったく意に介さぬがごとく、何のものおおじもせずに彼らの意見をマトモにぶつけてくることだ。英語のニュアンスを細かく伝えるのは非常にやっかいだが、例をあげてみる。

☆その1☆
ヤンツ「なんでここのみんなは、レッドゼッペリンやらAC/DCやらのどうしようもなくヤカマシイ音楽ばかり聞いてるんだい?どうにかしてもらいたいよ(ヤンツはプロのクラシックのオルガニスト=オルガンを弾いて報酬をもらう人だ)」
マーク「なんでって、それはいい音楽だからさ。」
「オレにはああいうのは雑音にしか聞こえないけどな・・。」
「ヤンツ、あんたは古すぎるんだよ。」
「音楽に古いも新しいもない。いい音楽とは人の心を安らかにしてくれるもののはずだろう?」
「その必要はないね。みんなのハートがハッピーになればそれがいい音楽なんだよ。音が大きいとか小さいとかを気にするのは、音楽を真に鑑賞しようとする気持ちがないということじゃあないのかな?」
「しかし、あれだけ耳障りのよくない音の演奏を聞くのは音楽家としてのオレにはとても耐えられないんだ。」
「オーライ、ヤンツ。もうやめよう。あんたが生まれ変わってからまたこの話の続きをしようや。」

☆その2☆
オレ「やれやれ・・・・・。
ロビン「どうしたんだい、ケン。」
「あの5号室のトムの野郎、ビール3本の借りをオレに返さないまま昨日ここから出ていきやがった。」
「それは残念・・・。」
「ショップで買っとくのを忘れて、今晩飲むものがなくなってしまったよ。」

<メモ>モシャーフやキブツ内のショップではハードカレンシー(紙幣や硬貨)は使われない。ショップに各メンバー・各ボランティアの個人カードが置いてあり、オレたちがものを買い物する度にレジのおばさんが合計金額をそのカードに記入し、オレたちはその横にサインをする。そして月の終わりにモシャーフの事務局がその月の各個人の合計を集計し、それぞれの給料から天引きするというシステムを取っている。

「仕方ないね。自分で蒔いた種だもの。」
「どういう意味だい?」
「そういうやつに貸しを作って、ほっとく方が悪いんだよ。」
「しかし、やつは金曜の夜のバーでカネを持ち合わせていなかったんだぜ。」
「ふうん。だけど、明らかにトムってやつはオレの目にはマトモに見えなかった。それを見抜けずに、貸しを作ったあんたの失敗だ。いまさらボヤイたって、あとの祭りだよ。」

 日本では20才の人間が30才の人間に対して、同年代の友人に対するのと同じような言葉で話すというのはちょっと考えにくいことだが、彼らとではそれが日常的である。自分の知る範囲でいえば、英語では日本語でみられるような特別な敬語表現は相手がよっぽど高位の人間でない限り、ほとんど使用されない。

 そしてこのモシャーフのボランティア同士の関係は平等であるため、このモシャーフのボランティア同士のコミュニケーションの道具となっている英語は、すべてふつうの口語表現のみが用いられている。

 これまで2年間、特にカラーサで働き始めて以来、ほとんど英語のみを使って生活してきたものの、マークとロビンの態度にはいささか驚いた。オーストラリアにいた時にもいろんな人間と話をしたり、横で人々が話をするのを見てきて、英語では誰に対してもほぼ同じ言葉を使って話すことが許されるのだ、と理解してはいたが、彼ら2人の話ぶりはやはり何か異常な感じがする。

 彼ら2人の話ぶりは横柄なものでも、倫理的に不快感を与えるようなものでもない。が、やはりどうもひっかかるのは、彼ら2人がふた言めに必ず口にする「イングランドでは(イギリスでは、でなく)・・・・・・・。」
というフレーズのせいのようだ。

 ロンドンに7年住んだというキプロス出身のジェフが、イングランド人は彼らの生活スタイルを絶対に変えようとはしない、自分たちのやることはすべて正しいんだと思い込んでやがるんだ、とあきれた様子で言っていたことを思いだす。

 そしてマークが何かの折りに2回ほど口にした、
「English people are the best people in the world.」
という言葉も思い出される。

 となると、どうやらオレとヤンツに対するマークとロビンのあの攻撃的とも言える自己主張の源は、オレたちはイングランド人なんだという他国民に対する優越感にほかならないのではあるまいか。

 オレはマークやロビン始め、一般的にいってイングランド人には好感をもっている。ヨッパラってどうしようみないやつも、小犬と同等の生き方しかできないやつもいることはいるが、いわゆる紳士的なマナーというものを「概して」身につけている彼らには、軽い尊敬の念さえ抱かずにはいない。

 しかし、イングランド人以外に対して、その意見にほとんど耳を傾けようとしない彼らのかたくなな態度は、決して容認されるものではない。

 自分たちを世界で最も優れた国民だと思い込むのは勝手だが、反省のないところに進歩はない。英国病というもののルーツは、実際このあたりにあるのかもしれない。

<前のページ> <次のページ>

 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする