1987年6月G日

オレがエジプトに行っている間にこのスデ・ニツァンにやってきたポルトガル人ボランティアのジュアンという男と仲良くなった。やつはショートーカイとかいう空手の道場に通って黒帯を取り、全ポルトガルのチャンピオンにまでなったとかで、極めて親日的な男である。現在日本語を独学中で、この漢字はどう読むのか、などと訊ねてきたりしたことから口をよくきくようになった。
やつの彼女のスイス人エステルによくメシをごちそうになり、そのお返しにと二人にメシをオレのキューブでご馳走した昨日の夜、やつが面白いことを言った。
ジュアンはここへ来るまでスイスで1年間働いていたそうだが、やつによるとスイス人というのはとんでもない人種差別主義者だという。
やつは他のポルトガル人やスペイン人とアルプスのふもとのリゾートホテルでバーテンダーやらコック見習いやらをしていたそうだが、やつらはスイス人から徹底的に屈辱的にあしらわれたという。
やつらはきっちりと合法的に雇われていたらしいが、スイス人のマネージャーは彼らに給料は基準以下しか支払わず、文句を言えばクビをほのめかされ、人間らしい口のきき方もされず、そのホテルで働くポルトガル人とスペイン人はまったく鳴かず飛ばずの毎日を余儀なくされたという。そして、それは他のホテルでもすべて同じような調子だった、とジュアンは言っていた。
スイス人の中から感じの良い人間なんて捜し出すのは至難のワザだぜ。オレはあの1年間でたった3人しか気持ちよく付き合えなかったよ、とジュアンは眉をしかめて小声で話した。
スペイン、ポルトガルが西ヨーロッパの水準からみて経済的にかなり劣るとはことは聞いていた。しかし、われわれの目には同じ白人と映るやつらポルトガル人、スペイン人がフランスを隔てただけの国の人間から「人種差別」を受けるとは・・・・。われわれ色つき人種すなわちこの数百年の間白人の側から差別を受けていた側からみれば奇異な感じがする。
現在オレのキューブの隣りの部屋に住むグンターはその人種差別主義者の国スイスから来ているが、確かにグンターはジュアンのことをキューブNo.2のポルトガル人としか呼ばない。ジュアンの彼女がスイス人であることからも、グンターはジュアンに対してあまり良い印象は持っていないようだ。
統計数字で見ればスイスは一人あたりの国民所得額が先進諸国のなかで最も高いきわめて豊かな国であり、ヨーロッパ随一の働き者の国であるという。そして彼らはおそらく世界一愛国心の強い国民だということでもある。
統計数字上豊かで、働き者で、愛国心が強いとは、東洋の東のスミにあるナントカいう国もそうだったと思い出す。
ある国の人々が「人種差別主義者」であるかどうか。その答えは、よその国からやって来た労働者たちが、一番よく知っているといえそうだ。オレ自身は・・・・・。
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