G-09 耳よりな話が ☆一日$100ドルの給料☆

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1987年4月C日

ノルウェー, 地図
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 同室のキプロス人ジェフが今日出ていったが、去り際にやつがすごく耳よりな情報を残していった。ノルウェーの魚工場で働き口があるという。ホントか?と詰め寄ると、やつはジェリーというイギリス人の女の子に聞きに行けばいいと教えてくれた。

 キューブの一番遠い部屋にいたジェリーは長身の黒人の女の子だった。彼女はその工場について、うれしそうな顔でていねいに話してくれた。

「わたしはもうOKの返事をもらったの。ほら、これがその手紙よ。」
 彼女はノルウェー語で会社名が印刷された封筒をオレに手渡した。中を読むと、
「われわれはあなたに6月10日までに来てもらえればありがたく存じます、云々・・。」
と、英語で書いてある。

「へぇ、よかったねぇ。で、あなたはどうやって、ここの工場での働き口を見つけたの?」
「けっこう手間取ったのよ。この工場の名前と住所を2ヶ月前までこのモシャーフにいたスウェーデンの女の子から聞いたのが去年の11月だったかな。」
「11月?あんた、ずいぶん長くここにいるんだね。」

「うん、まあね。でも、わたしはここでは驚くほど古いってことはないけどね。半年以上いる人なんてざらだもの。」
「ふぅん、そう・・。」
「で、12月ごろに最初の手紙を書いたの。返事は1月に返ってきたけど、その時はまだ予定がわからないっていうことだった。それで3月の始めにもう一度同じように手紙を書いたら、先週この返事が来たっていうわけ。」

「そう。よかったね。で、そこでどのくらいの収入になるかわかってるの?」
「はっきりとはわからないわ。でも、人の話によると、ノルウェーの魚工場ではだいたい一日最低50米ドルぐらいだっていう話よ。」

「一日50米ドル・・、最低で・・・!?」
「ウフフ・・・、なかなかのもんでしょ?」
「このモシャーフでは、1ヶ月でも200米ドルにしかならないのに・・・。」

50米ドルっていうのは最低線よ。もしあなたが残業もかまわないっていうのなら、一日100米ドルなんてのも夢ではないらしいわ。」
「100米ドル!?」
「そんなに大きな声出さないでよ。ウフフフ・・・。」

「だって・・・、いや、こことの給料の差を考えたら・・・、いや、びっくりだ。・・で、そこではいったいどんな仕事をするのかな?」
「女の子は魚の切り身をナイフで切ったり、男の子は重たいものを担いだり、って聞いてるけど・・・。サイコーに素敵っていう感じの仕事ではなさそうね。」
「ふぅん・・・。」

「あなたは日本からだっけ?」
「ああ。」
「日本の給料水準って、どうなの?」
「オレが日本にいた時には、そうだなあ・・、年収で2万米ドルちょっとぐらいだったかな。大卒としては安い方だったみたいだけど。」
「2万ドル?1万2千ポンドぐらいね。ああ、それならイギリスの若者よりもずっといいわ。少なくともここに来てる人たちよりかね。」

「どういうことだい?」
「ここに来てる人たちって、あなたどういう人たちだか知ってる?」
「・・いいや・・・?」
「彼らはみんなイギリスでは失業者なのよ。それに、もし職を持っていたとしても大した給料はもらってなかった人たちだと思うわ。」
「イギリスでは失業者の問題はかなり深刻だとは聞いてたけど・・。」

「イギリスはヨーロッパの中でも特に深刻よ。だからみんなイギリスを脱出して、居心地のいいイスラエルにこんな風に吹きだまってるってわけよ。」
「実際、このモシャーフにはイギリスのやつが多すぎるね。」
「ここだけじゃないわ。イスラエルにあるキブツやモシャーフ、どこへ行ってもイギリス人は過半数を占めてるって話よ。」

「イスラエルじゅうどこへ行ってもかい?」
「ええ。不幸にもね、ウフフフ。みんな簡単に仕事と寝る場所が手に入って、穏やか気候のこのイスラエルに集まってるってことよ。」
「へぇ・・・・・、なるほどねぇ・・・。」

 なるほど、これで少し様子が見えてきた。なぜイギリス人が多いのか、なぜやつらがバカみたいに酔っ払うのか、なぜこれだけだらしないやつが多いのか。彼女の言葉がナゾ解きを手伝ってくれた。

「6月の10日までに来いって、もうすぐだね。あなたはその魚工場がどこにあるか知ってるの?」
「ううん、ぜんぜん知らない。ただ知ってるのはその町がノルウェーの北の端の端の小さな漁村だってことだけよ。
「北の端の端・・・?」

「ええ、冬はメッチャクチャ寒いって。わたしはそこに夏の間だけしかいないけどね。」
「そんなところに人間住んでるのかなあ?」
「ウフフ、住んでるみたいよ。この手紙がちゃんと着いたんだから。」
「そうだね・・・。」

「あなたは、なんでそこで働きたいの?」
「早い話がカネがなくなったからさ。このモシャーフじゃあ、ヨーロッパを楽しんで旅して回るほどのカネができるのに、いったい何ヶ月かかるかわかりゃしない。そうだろ?」
「そうね。」

「あんたはなんでそんなところまで?」
「わたしも同じ。お金を貯めて旅行がしたいの。貯めるだけ貯めたら、思いっきり羽根をのばしたいわ。ヨーロッパからインド、タイ、中国、日本。みんな行ってみたい国ばっかり。わたし、もう働くのに飽き飽きしちゃったの。」
「みんな同じような悩みを抱えているんだね。・・・ハハハ。」
「そうみたいね。フフフ。」

 彼女は親切な人だった。工場の名前と住所をもらって帰る。なかなかどうして、悪い話では決してない。さっそく手紙を書かねば。
「一日50米ドルから100米ドルかぁ・・・。」
オレは今日一日、うわ言を繰り返した。

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