F-24 船上で会ったユダヤ系南アフリカ人女性からイスラエルについて聞く

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1987年3月L日

ユダヤ系, 南アフリカ人, 女性

 自分の席に帰る。ひとりの船旅というものは心淋しいものだ。バスや列車や飛行機のように、自分の席に座っていることが当たり前の乗り物では、そのまま自分の席で眠りこくっていても、それほど自分を不自然なものとして感じることはない。

 だが、動く社交場ともいえるこの船の中では、周りがそれぞれのグループでわいわいやっているがため、ひとりでポツンと席に座っている自分がやたら不自然なものに感じられてくる。

 それに加え、カネがないというひもじさと世界の火薬庫を行くという緊張感は、ひとりでいるとよけいに身体に染み透っていく。寝るにはまだ早く、オレはごく自然に誰か話し相手を探し始めていた。

 通路の向こう側の席に、黒髪、大きなブラウンの目を持った、北地中海地域共通の顔をした女の子がいた。オレは身を少し乗り出して話しかけてみた。

「あのう・・・、すみません。この船は何時ごろキプロスに着くんでしたっけ・・・?」
 彼女は少し驚いた様子だったが、
「えーっと・・・・、たしか明日の正午過ぎだったと思いますけど・・・。」
と、笑顔で答えてくれた。

「たしか・・・、キプロスでは何時間か停泊するんでしょう?」
「・・・だと思いますよ・・・。」
 彼女は愛想よく応対してくれる。なんとなく救われた気持ちになって、オレは話しを続けた。

「あなたはどちらまで・・?」
「イスラエルへ帰るの。」
「ああ、イスラエルの人ですか?」
「いいえ、私は南アフリカ人ですよ。私、約一年前南アフリカを出て、真っ先にイスラエルに着いたの。ヨーロッパ滞在後にまたイスラエルから南アフリカへの帰りのフライトに乗ることになっているの。」

「へぇ、そうなんだ・・・。ボクはてっきりあなたをギリシャかイタリアの人かと思ってた・・・。で、ボクは日本からです。」
「あっそう。私がイタリアにいた時、イタリア人は私をイタリア人と思い、ギリシャの人たちは私をギリシャ人だと思って話しかけてきたものよ。」

「そうだろうね。あのう、南アフリカもオーストラリアやアメリカのように移民の国だと思うけど・・・。」
「ええ、そうよ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「あなたの祖先はどこから来たのか。聞いていいのかな?」

 話題に困ったオレは、多少ぶしつけかなとも思える質問を思わず口にした。オーストラリアあたりではこの手の質問はそれほどアブノーマルではないが、やはりオレは少し後悔した。

「ええ、私はユダヤ人なの。」
「ユダヤ・・・?あっそうか、それで南アフリカから真っ先にイスラエルへ行ったんだね。」
「そうよ。」

 幸い彼女は何ら悪びれる様子はない。

「ボクはイスラエルへ行くのは初めてなんだけど・・。イスラエルはどうだった?」
「どうって、イスラエルは素晴らしい国よ。人々は素敵だし、親切だし、美しい国だわ。あなたもきっと好きになると思うわ。」
 彼女も淋しかったのか、話しはなごやかに進んだ。

「・・やっぱりね・・・。」
「イスラエルには何しにいくの?」
「いやぁ、実はヨーロッパでカネがなくなって、イスラエルでキブツかモシャーフヘ避難しに行くところなんだ。」
「ウフフフ、それはお気の毒。だけど、イスラエルでは何も心配しないでいいわ。キブツやモシャーフに住んでる限り、飢え死にすることは絶対にありえないもの。」

「そう。それを聞いて安心したよ。いろんな人からそのようなことは聞かされていたんだけど、本当は内心心配だったんだ。」
「心配なしよ。イスラエルはとてもハッピーなところだもの。」

 彼女は大学で社会福祉の学位を修めたとかで、話しぶりは教養の高さをにおわせた。キブツに4ヶ月いたという彼女が、太鼓判を押したような口ぶりでイスラエルの生活を保証してくれたおかげで、オレの気持ちはかなりなごんだ。

 自分が淋しいと感じるような時には、回りにも同じような思いを持つ人が見つかるものだ。

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